土曜日の朝、ベッドの中でコウヤに抱かれたまま惰眠を貪っていると、インターホンが鳴った。
私は、目を開けて、時計を見た。
まだ9時前である。
(まさか……また純也が来たんじゃないわよね)
不安なデジャブを感じつつも、渋々ベッドから這い出る。
脱ぎ捨ててあった服を手早く身に付けていると、布団の中でコウヤがううん、と目を覚ました。
「……ファム? また誰か来たの?」
またコウヤが裸で出て来ては困るので、私は、コウヤに寝てていいよ、と伝えると、玄関へ向かった。
2回目のインターホンが鳴る。
やはり、押し売りなどではなさそうだ。
私は、前回の反省を生かして、今度は、ドアスコープから訪問者を確認することにした。
そこに居たのは、純也ではなく、作業着を着た見知らぬ二人の男性だった。
(な、なんだろう……水道メーターの点検とか、電気の配線の点検とかかしら)
それなら事前に連絡が来ていそうだが、と思いながらも、私は、恐る恐る玄関を開けた。
「……はい。なんでしょうか?」
「お休みのところ朝早くから申し訳ありません。
私たちは、動物愛護センターの職員の者です」
年配の方の男が名刺を渡して丁寧なお辞儀をした。
”動物愛護センター”という名前に、ぎくりとする。
市が運営している犬猫保護施設の名前だ。
「実は、先日〇×市の保健所から連絡を受けまして、
どうやら人に噛みついて怪我をさせた犬がいるという情報があり、調査中なんです」
(まさか、純也が……?)
「こちらで犬は、飼われていませんか?」
「いえ、うちはペット禁止ですので……犬も猫も飼っていません」
私は、緊張で自分の声が震えないよう注意を払いながら答えた。
犬を飼っていないのは本当だが、純也に怪我を負わせたのは本当なのだ。
「申し訳ないのですが、お部屋の中を拝見させて頂けないでしょうか?」
「そ、それは、ちょっと……部屋が散らかってますので……」
ベッドの中で、コウヤが裸のまま寝ているのを気にして答えた。
だが、動物愛護センターの職員は、別の意味に受け取ったようだった。
「あまりお時間は取らせません。
犬が居ないことだけ確認させてもらえれば、それですぐにお暇します。
事情が事情なもので、もし人に害を加えた犬を飼われているとなると、
その犬が今度は別の人間を襲う可能性もあります。
狂犬病や動物を介して感染する病気などもありますので、危険を放置することは出来ず……
ご理解頂けると助かります」
そう言って、職員の2人が深々と頭を下げるので、私は、断ることが出来なくなってしまった。
ここで変に拒絶しても、逆に疑わしいと思われるだけだろう。
私が返答に困っていると、もう一人の若い職員が待ちきれない様子で、部屋の中へと入って来ようとした。
「失礼しますっ」
「あ、ちょっと……!」
若い職員は、私の制止する声に耳も貸さず、靴を脱いで、部屋へ上がると、中をさっと見回す。
私は、コウヤが起きてきませんように、と心の中だけで祈った。
職員の目がキッチンの隅に置かれていた袋に目を留めた。
近づいて袋を取り上げると、私に向かって見せる。
「これは……ドッグフードですね」
「そ、それはっ、間違えて買ってしまったんです!
私、酔っぱらっちゃって……」
コウヤを拾った夜、コンビニで買った安いドッグフードだ。
結局、全く手を付けようとしなかったので、中身は減っていない。
「……封が空いているようですが」
「お菓子かと思って!
空けてから気付いたんですよ!
本当、間抜けですよね~あはは~」
我ながら苦しい言い訳だったと思う。
それでも、他に良い言い訳が思い浮かばなかったのだから仕方がない。
職員は、納得のいかなさそうな顔をしていたが、ドッグフードの袋を置いてあった場所へ戻した。
そして、お風呂場とトイレをざっと確認すると、残る最後の扉に目を向ける。
コウヤが寝ている部屋だ。
「こちらも、失礼しますっ」
「あ、そこは……」
私は止めようと声を上げたが、もう遅い。
若い職員は、無遠慮に思い切りよく扉を開けた。
私は、目を開けて、時計を見た。
まだ9時前である。
(まさか……また純也が来たんじゃないわよね)
不安なデジャブを感じつつも、渋々ベッドから這い出る。
脱ぎ捨ててあった服を手早く身に付けていると、布団の中でコウヤがううん、と目を覚ました。
「……ファム? また誰か来たの?」
またコウヤが裸で出て来ては困るので、私は、コウヤに寝てていいよ、と伝えると、玄関へ向かった。
2回目のインターホンが鳴る。
やはり、押し売りなどではなさそうだ。
私は、前回の反省を生かして、今度は、ドアスコープから訪問者を確認することにした。
そこに居たのは、純也ではなく、作業着を着た見知らぬ二人の男性だった。
(な、なんだろう……水道メーターの点検とか、電気の配線の点検とかかしら)
それなら事前に連絡が来ていそうだが、と思いながらも、私は、恐る恐る玄関を開けた。
「……はい。なんでしょうか?」
「お休みのところ朝早くから申し訳ありません。
私たちは、動物愛護センターの職員の者です」
年配の方の男が名刺を渡して丁寧なお辞儀をした。
”動物愛護センター”という名前に、ぎくりとする。
市が運営している犬猫保護施設の名前だ。
「実は、先日〇×市の保健所から連絡を受けまして、
どうやら人に噛みついて怪我をさせた犬がいるという情報があり、調査中なんです」
(まさか、純也が……?)
「こちらで犬は、飼われていませんか?」
「いえ、うちはペット禁止ですので……犬も猫も飼っていません」
私は、緊張で自分の声が震えないよう注意を払いながら答えた。
犬を飼っていないのは本当だが、純也に怪我を負わせたのは本当なのだ。
「申し訳ないのですが、お部屋の中を拝見させて頂けないでしょうか?」
「そ、それは、ちょっと……部屋が散らかってますので……」
ベッドの中で、コウヤが裸のまま寝ているのを気にして答えた。
だが、動物愛護センターの職員は、別の意味に受け取ったようだった。
「あまりお時間は取らせません。
犬が居ないことだけ確認させてもらえれば、それですぐにお暇します。
事情が事情なもので、もし人に害を加えた犬を飼われているとなると、
その犬が今度は別の人間を襲う可能性もあります。
狂犬病や動物を介して感染する病気などもありますので、危険を放置することは出来ず……
ご理解頂けると助かります」
そう言って、職員の2人が深々と頭を下げるので、私は、断ることが出来なくなってしまった。
ここで変に拒絶しても、逆に疑わしいと思われるだけだろう。
私が返答に困っていると、もう一人の若い職員が待ちきれない様子で、部屋の中へと入って来ようとした。
「失礼しますっ」
「あ、ちょっと……!」
若い職員は、私の制止する声に耳も貸さず、靴を脱いで、部屋へ上がると、中をさっと見回す。
私は、コウヤが起きてきませんように、と心の中だけで祈った。
職員の目がキッチンの隅に置かれていた袋に目を留めた。
近づいて袋を取り上げると、私に向かって見せる。
「これは……ドッグフードですね」
「そ、それはっ、間違えて買ってしまったんです!
私、酔っぱらっちゃって……」
コウヤを拾った夜、コンビニで買った安いドッグフードだ。
結局、全く手を付けようとしなかったので、中身は減っていない。
「……封が空いているようですが」
「お菓子かと思って!
空けてから気付いたんですよ!
本当、間抜けですよね~あはは~」
我ながら苦しい言い訳だったと思う。
それでも、他に良い言い訳が思い浮かばなかったのだから仕方がない。
職員は、納得のいかなさそうな顔をしていたが、ドッグフードの袋を置いてあった場所へ戻した。
そして、お風呂場とトイレをざっと確認すると、残る最後の扉に目を向ける。
コウヤが寝ている部屋だ。
「こちらも、失礼しますっ」
「あ、そこは……」
私は止めようと声を上げたが、もう遅い。
若い職員は、無遠慮に思い切りよく扉を開けた。