「曖昧なままにしていた私が悪かったのよね。
だから、ここでハッキリさせましょう。
私たち、ちゃんと”別れる”って」
それを聞いた純也の表情が一変して、真っ赤になる。
「……なんだよ、あの男がそんなに良いのかよっ」
「コウヤは関係ない!」
私がコウヤの名前を出した途端、純也の目つきが怪しい色を帯びる。
「俺の方が良いって、分からせてやる」
そう言うと、急に純也が私との距離を詰めてきた。
驚いた私は、後ずさりをしたが、純也に腕を掴まれてしまう。
「ちょっと、何すん……」
文句を言おうと開いた口が次の瞬間、純也の唇によって塞がれていた。
自分勝手で、ただ感情を押し付けるだけの乱暴な口付けだった。
押しのけようとしたが、後頭部を抑えられて逃げることが出来ない。
(んっ……嫌っ!)
口を割って、舌が入ってくる。
かつてはそれを受け入れていた自分が居たことが信じられないほど、今はただ不快感しかない。
(誰か、助けて!)
その時、突然一匹の犬が駆け寄って来て、純也の腕に思い切り噛みついた。
黒と白の毛に茶色の斑模様が入り交じった大きな犬。
コウヤだ。
犬の姿なら追い払われず、私の傍にいられると考えたのだろう。
純也は、噛まれた痛みと驚きに叫びながら私から離れた。
開放された私は、無意識に自分の唇を袖で拭った。
「なんだ、このクソ犬……!」
悪態をつきながら純也が腕を振り払うと、噛み付いていたコウヤがぱっと口を離し、身軽な様子で地面に着地する。
そのまま私を守るように立ち塞がると、純也に向かって牙を剥いた。
「いってぇ……んだよ、この犬!
西野の犬なのか?」
純也が噛まれた腕を抑えながらわたしを見る。
シャツには穴が開き、抑えた腕から血が流れている。
私は、襲われかけたショックと、目の前の光景に身体がすくんで言葉が出ない。
きゃー、と誰かが叫んだ。
日曜日の公園だ。
通りがかった親切な人が純也の腕から血が出ているのを見て、救急車を呼びましょうか、と声を掛けてくれる。
「いや、大丈夫です……」
「でも、犬に噛まれたなら、病院へ行った方がいいですよ」
「はあ……」
純也が私を見た。
その目が何か言いたそうだった。
でも、私がじっと動かないのを見て、ぐっと唇を引き結ぶと、そのまま諦めたように背を向けて立ち去って行った。
純也の姿が見えなくなると、私は、どっと力が抜けて、その場に座り込んだ。
本当なら、私も病院へ着いて行った方が良かったのかもしれない。
でも、あんなことをされた後で、純也の身体を心配できるほど私は、お人好しではない。
コウヤが近づいてきて、私の頬を舐めた。
その時初めて私は、自分の頬を涙が伝っていることに気が付いた。
「はは……なんでだろう。
あんなの全然、痛くもかゆくもないのに、ね……」
純也に無理やりされた口付けを思い出して、身震いがした。
あのまま、コウヤが助けてくれなかったら、どうなっていただろう。
人の目があるからと油断していたが、そう言えば純也は、付き合っていた頃から、人前でいちゃつくことが平気な人だった。
コウヤが優しく私の唇を舐める。
犬の姿をしてはいるけれど、私には、コウヤが慰めの口付けをしてくれているように感じた。
(コウヤとのキスは、嫌じゃない……)
純也との関係が曖昧だったと言うのなら、
この今のコウヤとの関係は、一体何だと言うのだろう。
助けてくれたことは嬉しかったけど、
この関係に名前を付けることは、まだ出来そうにない……そう思った。
だから、ここでハッキリさせましょう。
私たち、ちゃんと”別れる”って」
それを聞いた純也の表情が一変して、真っ赤になる。
「……なんだよ、あの男がそんなに良いのかよっ」
「コウヤは関係ない!」
私がコウヤの名前を出した途端、純也の目つきが怪しい色を帯びる。
「俺の方が良いって、分からせてやる」
そう言うと、急に純也が私との距離を詰めてきた。
驚いた私は、後ずさりをしたが、純也に腕を掴まれてしまう。
「ちょっと、何すん……」
文句を言おうと開いた口が次の瞬間、純也の唇によって塞がれていた。
自分勝手で、ただ感情を押し付けるだけの乱暴な口付けだった。
押しのけようとしたが、後頭部を抑えられて逃げることが出来ない。
(んっ……嫌っ!)
口を割って、舌が入ってくる。
かつてはそれを受け入れていた自分が居たことが信じられないほど、今はただ不快感しかない。
(誰か、助けて!)
その時、突然一匹の犬が駆け寄って来て、純也の腕に思い切り噛みついた。
黒と白の毛に茶色の斑模様が入り交じった大きな犬。
コウヤだ。
犬の姿なら追い払われず、私の傍にいられると考えたのだろう。
純也は、噛まれた痛みと驚きに叫びながら私から離れた。
開放された私は、無意識に自分の唇を袖で拭った。
「なんだ、このクソ犬……!」
悪態をつきながら純也が腕を振り払うと、噛み付いていたコウヤがぱっと口を離し、身軽な様子で地面に着地する。
そのまま私を守るように立ち塞がると、純也に向かって牙を剥いた。
「いってぇ……んだよ、この犬!
西野の犬なのか?」
純也が噛まれた腕を抑えながらわたしを見る。
シャツには穴が開き、抑えた腕から血が流れている。
私は、襲われかけたショックと、目の前の光景に身体がすくんで言葉が出ない。
きゃー、と誰かが叫んだ。
日曜日の公園だ。
通りがかった親切な人が純也の腕から血が出ているのを見て、救急車を呼びましょうか、と声を掛けてくれる。
「いや、大丈夫です……」
「でも、犬に噛まれたなら、病院へ行った方がいいですよ」
「はあ……」
純也が私を見た。
その目が何か言いたそうだった。
でも、私がじっと動かないのを見て、ぐっと唇を引き結ぶと、そのまま諦めたように背を向けて立ち去って行った。
純也の姿が見えなくなると、私は、どっと力が抜けて、その場に座り込んだ。
本当なら、私も病院へ着いて行った方が良かったのかもしれない。
でも、あんなことをされた後で、純也の身体を心配できるほど私は、お人好しではない。
コウヤが近づいてきて、私の頬を舐めた。
その時初めて私は、自分の頬を涙が伝っていることに気が付いた。
「はは……なんでだろう。
あんなの全然、痛くもかゆくもないのに、ね……」
純也に無理やりされた口付けを思い出して、身震いがした。
あのまま、コウヤが助けてくれなかったら、どうなっていただろう。
人の目があるからと油断していたが、そう言えば純也は、付き合っていた頃から、人前でいちゃつくことが平気な人だった。
コウヤが優しく私の唇を舐める。
犬の姿をしてはいるけれど、私には、コウヤが慰めの口付けをしてくれているように感じた。
(コウヤとのキスは、嫌じゃない……)
純也との関係が曖昧だったと言うのなら、
この今のコウヤとの関係は、一体何だと言うのだろう。
助けてくれたことは嬉しかったけど、
この関係に名前を付けることは、まだ出来そうにない……そう思った。