「あなたの事情は、分かったわ。
 私にも、あなたを拾ってきた責任があるし、
 とりあえずは、しばらくうちに置いてあげる。
 でも、これだけは約束して」

私は、コウヤに向かって、三本の指を立てて見せた。

「一つ、人前で勝手に犬に変身しないこと。
 二つ、家では、別々に寝ること。妙なことをしたら、外で寝てもらうから。
 三つ、働かざる者、食うべからず。
 私が仕事に行ってる間は、家のこと……掃除・洗濯・料理をしてちょうだい。
 まぁ、あまり長く居つかれても困るけど……」

コウヤは、納得のいかない顔をして首を傾げる。

「妙なことって?
 俺は、ファムの嫌がることは、絶対にしない。
 ファムの喜ぶ顔が見たいだけだ」

顔が赤くなるようなセリフをよく言えるものだ、と私は関心した。

「とにかく、あと人前でキスしたり抱きついたりしないこと!
 私は、あなたの番になるなんて認めてないんだからね。
 あなたの居た世界では、女性の同意もなくキスなんかして許されるの?」

「う……そ、それは……わかった。
 ファムが嫌なら、誰も見てない時だけにする」

「そうそう、誰も見てないところで……って、違う!
 誰も見てなくても駄目!!」

(これは、躾に苦労しそうね……)

私は、無理やりコウヤに約束をさせると、しばらくの生活に必要なものを買い揃えてから、家へ帰った。
荷物を置いて、一息つくと、スマホに着信があることに気が付いた。
婚活サイトにコウヤの写真をアップしておいたので、早速たくさんの連絡が入っている。

(職業「不詳」の割に、リアクション高いなぁ~。
 やっぱり、人間、顔が重要なのね、顔が)

いずれも年収の高い女性たちからの連絡ばかりだ。
私は、コウヤに彼女たちからのメッセージと写真付きプロフィールを見せた。

「どう? コウヤに興味があるって女性たちがこんなにいるのよ。
 この中から(つがい)を選ぶってのは、どうかな?
 コウヤの好みの女性がいる?」

すると、コウヤは、むっとした表情でそっぽを向いた。

「俺は、他の女に興味は持たない。
 俺には、ファムだけだ」

「そんなこと言わないで、見るだけでも見てみたら?
 ほら、選択肢は、多い方がいいでしょう。
 この女性なんて、女の私から見ても美人だし、高物件……」

私がスマホの画面をコウヤの顔の前に突き出して見せると、コウヤが私の腕を掴む。

「ファムは、俺がこの中の女たちと#番__つがい__#になってもいいのか」

「え……そ、それは……」

至近距離でコウヤに見つめられ、私の胸が無意識に高鳴る。

(あれ、なんだろう、これ……)

純也と別れてから、感じることのなかった感情が揺り起こされていく感覚。

(きっと、勘違いよ。
 こんなに真っすぐな気持ちをぶつけられたことがないから、驚いてるだけ……)

「どうしたら、解ってもらえる?
 俺は、ファムと(つがい)になりたいんだ」

コウヤの黄緑色の瞳が切なく私を見つめている。
ゆっくりコウヤの顔が近づいてきて、そのまま口づけされるのだとわかった。
一瞬、ほだされそうになったけど、純也にされた仕打ちが頭をよぎる。

「男なんて皆、どうせ一緒よ……」

キスされる寸前で、思わず、心の声が私の口をついて出ていた。
コウヤが顔を引き、戸惑った表情で私を見る。

「それは、どういう……」

その時、私が手にしていたスマホが鳴った。
私は、またコウヤ宛へのメッセージが来たのかと思い、画面を見る。

しかし、そこに表示されていたのは、婚活サイトからのメールではなく、
純也からのチャットメッセージだった。