な…何をしやがった?

「お前!何を…」

「え?実験室から持ってきたんだ。面白いことになりそうだったから」

ドッペルゲンガー天音は、にやにやしながら、空っぽになった茶色の小瓶を振っていた。

小瓶をよく見るとその瓶には、「危険」のラベルが貼ってあり。

もっとよく見ると、「硫酸」の文字が目に入った。

ま、まさか…硫酸ぶっかけたのか?

それだけではなかった。

「な、ナジュ君、しっか…ふわぁぁぁぁ!?」 

「シルナ!?」

ナジュに駆け寄ろうとしたシルナは、勢いよくすってんころりん、と保健室の床に転んだ。

何を遊んでいるのかと思ったら、よく見ると、シルナの足元が濡れていた。

ドッペルゲンガー天音がにやにやしているのを見ると、シルナが足を滑らせるように、わざと床を濡らしておいたのだろう。

こ、こいつ…!

「お前、ふざけたこと…!」

「…っ!羽久さん、上!」

本物の天音が、そう叫んだ。

上?

反射的に顔を上げると、天井に仕掛けていたらしい、薬品を入れる箱が、顔面に正面衝突。

歯、折れるかと思った。

ガツン!と激しい音がして、顔面に硬い箱をぶつけられた俺は、思わずその場に崩れ落ちた。

な、なんて馬鹿馬鹿しい真似を…。

良いように食らってしまう俺達も、負けないくらい馬鹿馬鹿しいが…。

「あはは!暇潰しに色々仕掛けた甲斐があったなー。面白かった」

ドッペルゲンガー天音は、無様に床に這いつくばる俺達を指差して、ケラケラ笑っていた。

こ、の、悪趣味野郎…。

何なんだ。このピタゴラ装置みたいな仕掛けは。

今すぐ立ち上がって、拳骨の一つでも食らわせてやりたかったが。

箱がぶつかった衝撃で、ボタボタ鼻血が出てきて、それどころじゃなかった。

「…なんて酷いことを…」

本物の天音は憤慨した様子で、自分のドッペルゲンガーを睨みつけた。

「何でこんなことをするの?」

「え?だって、面白いでしょ?」

「何も面白くなんかない。人を傷つけるような真似をして何が面白いの?」

…天音…。

さっき、疑って悪かった。

お前は紛れもなく、本物の天音だよ。

「ふん。自分同じ顔をした奴に説教されたくないね」

「君は許さない。今すぐ、この場で消えてもらう」

「へぇ?自信満々だね…。やれるものならやってみなよ」

ドッペルゲンガー天音は挑戦的な眼差しで、本物の天音を見つめた。