「…!お前…!」

思いの外、あっさりと。

校内を隈なく探すまでもなく、もう一人の天音は保健室にいた。

そして。

保健室にいた、この天音こそがドッペルゲンガーであると、俺達はすぐに確信した。

…だって。

「…何をやってるんだ、お前は」

「え?…たくさん薬品があって面白いから、ちょっと遊んでみようかと思って」

ドッペルゲンガー天音は、にやにやしながらそう言った。

オリジナルの天音なら、決してこんな風には笑わないだろうに。

この忌々しい天音の偽物は、消毒液やら石鹸水やら、様々な液体をコップに入れて、ぐるぐる掻き回して遊んでいた。

他にも、錠剤や包帯の類が戸棚から乱雑に引っ張り出され、床に撒き散らされている。

子供かよ。

変わり果てた自分の姿を見て、本物の天音は真っ青になっていた。

俺だって、自分の偽物がこんなガキみたいなことをしてたら真っ青にもなるわ。

「お前、天音のドッペルゲンガーだな?」

「うん、そうだよ」

あっさりと、そしていけしゃあしゃあと。

ドッペルゲンガー天音は、自分がドッペルゲンガーであることを認めた。

あれこれ言い訳しないところは、潔いと言えるが…。

いや、これだけ本物にはあるまじきことをしておいて「私は本物です」と言ったって、絶対信じないけどな。

本物の天音が、薬品を混ぜて遊ぶ訳ないだろ。

保健室の備品をめちゃくちゃにするのと同じノリで、ユリナのことも罵倒したんだな?

こいつの罪は重い。

「自分がドッペルゲンガーだと分かってるなら、話は早い」

俺はドッペルゲンガー天音に杖を向けた。

本物かどうか、見破る必要はない。

こいつが偽物だとハッキリしているのだから。

「消えてもらうぞ、この偽物め…!」

「ふーん…。…でも、そう簡単に行くかな?」

何?

ドッペルゲンガー天音はにやりとして、手元の包帯をぐいっ、と引っ張った。

…途端。

「…!危ない!」

「うわっ!?」

いきなり、ナジュに突き飛ばされた。

慌てて床に手を付き、驚いて振り返ると。

「ぷきゃぁぁぁぁ!ナジュ君!!」

シルナが、情けない声をあげていた。

それもそのはず。

ナジュは、頭からビーカー一杯分の謎の液体を被り。

その液体が、ナジュの顔の皮膚を溶かしていた。