「天音!いるか!」

勢いよく職員室に飛び込むと、職員室の中にいた天音が、びくっと身体を震わせた。

いたぞ。ナジュの言う通りだ。

しかし問題は、この天音が本物であるかどうかだ。

「び、びっくりした…。な、何…?」

恐る恐る振り返る天音。

まるで本物のように見えるが、油断してはいけない。

目の前にいるこの天音は、レントを保健室から追い返し、ユリナにろくでもないことを言いやがった、偽物の天音である可能性があるのだ。

常に疑ってかかるくらいの気持ちでないと。

申し訳ないが、今ばかりは、天音が何を言っても100%信用する訳にはいかない。

まずは、カマをかけるところから始めてみよう。

「お前、生徒に余計なことを言いやがって。天音のフリしてんじゃねぇそ、この偽物め!」

「え、えぇぇぇ?」

びっくり仰天する天音(仮)。

本物である確信が持てるまで、天音はずっと仮だ。

「白状しろ!お前が偽物だってことは分かってるんだぞ」

「ちょ、羽久さん?何言って…。僕は正真正銘…本物の天音だよ!」

何だと?

その言葉を信じたいが、しかし簡単に信じて騙されたんじゃ馬鹿みたいだからな。

根拠のない本物宣言は、信じないぞ。

「いたいけな一年生を泣かせて、何考えてるんだお前は。偽物に決まってる!」

「い、一年生を泣かせた…?僕が?何で?」

「しらばっくれてんじゃねぇ!」

「そ、そんなぁ…」

天音(仮)が、困り果てた顔をしていると。

「ま、まぁまぁ羽久、落ち着いて」

と、シルナが割って入った。

「落ち着いてられるか。こいつが偽物の、ドッペルゲンガー天音かもしれないんだぞ」

「そうだけど、でも本物である可能性だってあるよね?確かめる術がない以上、天音君が本物であるかどうかは半々なんだ。疑ってかかるのは良くないよ」

…全く甘いことを言いやがる。

ドッペルゲンガー天音に付け入られたら、どうするつもりなんだ。

…すると。

「…本物だと思いますよ、この人は」

ナジュが、天音を見つめながら言った。

何?

「何か根拠があるのか?」

「少なくともこの天音さんは、自分が天音さんであると確信しています。心の中を読めば分かります」

あ、成程…。

…。

…え、マジ?

「ナジュに心を読んでもらったら、本物かどうか一発で分かるってことか…?」

何だよそれ。最強じゃないか。

「いえ、そうとも言えませんよ。ドッペルゲンガーの方もまた『自分は本物である』と思っていたら、区別がつきません」

「あ、そうか…」

ドッペルゲンガーシルナは、自分がドッペルゲンガーだと自覚していたが。

もしかしたら、自分をドッペルゲンガーだと思っていない…自分こそオリジナルだと思いこんでいるドッペルゲンガーも、いるかもしれない。

そうなると、ナジュでも区別はつかないよな。

安易に読心魔法には頼れないってことか。口惜しいが。