神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

…そして。



俺達は(と言っても、イレースとすぐりは元気だったが)、有言実行、丸二日間ベッドに転がり、静養に努めた。

努めて何も考えず、ただ眠ることに集中した。

再びベッドから起き上がったのは、二日間が過ぎてから。

約束通り、猶予をもらった最後の一日は…お待ちかねの話し合いの時間だ。

…まぁ、考えるだけで頭が重いから…あまり気は進まないんだけどな。




いつものメンバーが、いつもの学院長室に集結した。

一応…全員、普通に起き上がれるくらいには回復したらしいな。

「…ナジュ、お前身体…大丈夫か?」

この中で、間違いなく一番重症だったナジュに、そう尋ねた。

実は、まだ内臓がいくつか足りてないんじゃないだろうな。

こいつ、死に慣れているせいで、いくつか内臓がなくても普通に動き回るからな。
 
どうなってんだよ、お前の身体。

「あ、はい。平気ですよ」

さらっと、何事もなかったように答えたが。

「…大丈夫じゃないでしょ…。まだ全然治りきってないんだよ」

天音が、眉をひそめて言った。

「大袈裟ですね、天音さん。平気ですって」

「胃もないし、肝臓や膵臓もないのに、それは平気だって言わないよ」

やっぱり、内臓足りてないんじゃないか。

どうやって動いてるんだよ、お前は。

「でも、胃がないお陰で、今は胃が痛くなることはないですよ。いかにも胃痛が激しくなりそうな会議ですし、これはむしろ好都合…」

「そんな訳ないでしょ。だから、医務室で大人しくしててって言ったのに…」

天音が止めたのに、言うことを聞かなかった訳だな?

「こうも立て続けに、窮地に陥っているというのに…僕だけ休んでる訳にはいきませんからね」

「…あのな、お前…」

ナジュはそういう奴だよ。

適当な奴に見えて、実は誰より責任感があったりするのだ。

馬鹿だな。

こんなときくらい、自分の身体を労れよ。

確かに、俺達は今…相当厄介な窮地に陥っているが。

手負いのナジュに鞭打って、無理矢理戦わせるようなことはしないぞ。

いずれにせよ、今回お前の出番はない。

とりあえず、会議には参加させてやるが。

これが終わったら、天音の言う通り医務室で休んでてもらうぞ。

二度とナジュに、あの奥の手を使わせて堪るか。

何なら、そのまま一生使うなよ。

…馬鹿ナジュはともかくとして。

「…シルナ」

「…」

この二日間、めっきり無口になってしまったシルナに、俺はそっと声をかけた。

…これはまた、相当来てるな。

自分のせいじゃないのに、また何もかも自分のせいだと背負い込んで…。

気持ちは分かるが、でも今は…。

「あのな、シルナ…。お前は何も悪くない。お前が一人で背負い込んで、責任を感じる必要はな、」

「はい、そこまでです」

え?

シルナを励まそうとしたら、イレースに止められた。

これには、シルナもちょっとびっくり。

「な…何で止めるんだ?」

「時間がないからに決まってるでしょう」

…時間、って…。

そりゃ…もう24時間後には、再びイーニシュフェルトの里の族長が、ここを訪ねてくる…ことになってるが。
「私達には、要介護の老人を慰め、宥め、お優しく励ましてやる時間の余裕はありません」

「…」

イレース、きっぱり。

「落ち込んでいたいなら、一人でやっていなさい。そんな暇があるなら、私達はさっさと話し合いを続けます」

「…い、イレース…」

「大体、これで何回目ですか?昔のことを根掘り葉掘り聞かれては、いちいち落ち込んで、憔悴して、その度に羽久さんに慰めてもらって」

…それは…。

…何回目だろうな?確かに。

結構励ました気がするぞ、俺。

「全く、いい加減にしなさい。毎回毎回、同じような台詞で慰められ…。構ってちゃんですか、あなたは」

身も蓋もない。

イレースらしいと言えばイレースらしいが、あまりにも身も蓋もない。

「生憎今日は、構ってちゃんに構っている暇はないんです。めそめそしていたいなら、勝手にそうしなさい。でも…」

「…でも?」

「いっそ開き直って、あのうざったいジジィを撃退する方法を、共に考えると言うなら…話し合いの場に入れてあげましょう」

「…」

「その方が、余程建設的だと思いますが。どうですか?」

…イレース…。

…本当にな。お前の言う通りだ。

とんでもない荒療治だが…。今回は、効果覿面だな。

「…本当、そうだね」

余計に傷ついて、落ち込むかと思ったが。

シルナは、ふっと笑ってみせた。

この二日間で、シルナが微笑むところを初めて見た。

良かった…。

「耳が痛いよ、イレースちゃん…」

「話し合うつもりがあるんですね?」

「勿論、あるよ。…私も混ぜてもらって良いかな?」

「めそめそしないなら、良いでしょう」

「ありがとう」

相変わらず、スパルタ鬼教官のイレースだが…。

今回ばかりは、それが良い具合に転んだな。

シルナの調子も戻った。ナジュは…正直、今すぐ帰れと言いたかったが、言って聞く奴じゃないし。

まぁ、話し合いの場に参加するくらいは、許してやろう。

先の戦いで負傷していた、天音、令月の二人は、すっかりけろっとしているし。

イレースとすぐりは、元々元気だし。

俺は…俺も、この二日間でだいぶ良くなった。

完璧なコンディション…とまでは、行かないかもしれないが。

それでも、気を遣ってもらう必要はないくらいには、回復してる。

このメンバーなら、大丈夫だ。

多分、この世で一番信頼出来る。

相手がイーニシュフェルトの里の族長だろうと…遅れは取らないと誓おう。
…では、改めて。

「あの、里の族長についてだが…。…どうする?」

…と言っても。

聞くだけ野暮ってもんだな。

「どうするも何も、何人たりとも、学院に不法侵入して、私の完璧な授業計画の邪魔をするなら…粛清するまでです」

さすがイレース。即答だよ。

「え、あ、いや…。でも、一応、話し合いで解決出来ないかな…?学院長先生にとっては、同郷の人なんだから…」

心根の優しい天音は、暴力ではなく、話し合いで平和的に解決したい様子。

そうだな。それが出来るなら、多分一番良い。

シルナの苦しみを理解し、そして認めてもらいたい。

そうすれば、シルナも、誰も傷つくことはない。全てが丸く収まる。

しかし…。

「問題は、あのジジィが話し合いに応じてくれるか、だろ」

あの様子を見るに、とても話し合いをしてくれそうにないぞ。

問答無用で、殴りかかってきそうな勢いだった。

自称、イーニシュフェルトの誇り(笑)を何より重んじている奴らだ。

ヴァルシーナと言い、あのジジィと言いな。

そんな奴らが、里を裏切ったシルナを認め、和解してくれるとはとても…。

夢にも考えられない。

「無理かな…?やっぱり…」

「無理だろ…?あんなに拗れてるのに」

話し合うつもりがあるなら、先にそう言ってくるだろ。

それをせず、問答無用で殴りかかってきたのだから…。

あのジジィに、話し合いをするつもりはないと見て良いだろう。

血の気の多い奴だよ。

本当、ヴァルシーナにそっくりだよな。

あ、いや、逆か。

ジジィがヴァルシーナに似てるんじゃなく、ヴァルシーナがジジィに似ているのだ。

そんなに大事かね。イーニシュフェルトの里の誇りやら、威信やら。

俺にとっては、過去の栄光以外の何物でもないのだが。

とっくに新政権が発足して、何千年にもなるのに。

未だに、大昔の王家の血を重んじているような…そんな、時代錯誤を感じる。

いい加減、頭を最新バージョンにアップデートしろよ。

いつまで、昔の価値観まま生きるつもりだ?

すると。

「天音さん。話し合いは無理ですよ」

と、ナジュが当たり前のことのように、きっぱりと言った。

「え…そ、そうかな…」

「えぇ、無理です」

…やけに、はっきり断言するんだな。

そりゃ、話し合いに応じてくれそうな奴ではないが…。

でも、全く可能性が皆無って訳でも…。

「何で、そこまではっきり、無理だって言えるの?ナジュ君…」

という、天音の問いに。

「だって、死体と話し合いは出来ないでしょう?」

ナジュは、とんでもないことをさらっと言った。

…。

…死体?
…今、なんかとんでもない情報を聞いた気がするんだが。

…死体って言ったか?ナジュ。

「え…。し、死体って…どういうこと?」

これには、天音もびっくり。

イレースも眉を釣り上げていた。

…が。

ナジュ、シルナ、そして元暗殺者組の二人は、平然としていた。

え、マジ?

分かってなかったの、俺達だけ?

「言葉の通りですよ。あれは死体です。読心魔法が通じなかったので」

「…!」

お前…。

…あの状況で、ジジィに読心魔法を使ってたのかよ。

「いや、でも…。イーニシュフェルトの里の賢者は、どいつもこいつも、揃いも揃って小賢し…いや、ずる賢いし」

「えっ、ちょ。羽久、それ私も含まれてるの…!?」

当たり前だろ。お前が代表だ。

「もしかして、ナジュが読心魔法を使えることを知ってて、敢えて心を閉ざしてたんじゃないか?」

ヴァルシーナも、似たようなことやってたんだろう?

ヴァルシーナに出来ることなら、あのジジィにも簡単に出来るだろう。

…と、思ったが。

「いえ、そうではなく…心そのものがなかったんです」

「…心そのものが、ない…?」

「肉体は確かにそこにあるのに、中身は空っぽと言うか…。さながら、この間戦ったアリスのように…動く人形を見ているようでした」

「…人形…」

人形だと…?

イーニシュフェルトの里の族長の、人形。

存在するのだとしたら、随分悪趣味な人形だが。

有り得るのか、そんなこと…?

更に。

「不死身先生の言う通り。あの老人、生きてないよ。死体だ」

「そーだね。俺も初見で分かったよ。あれは死体だって」

令月とすぐりの二人も、ナジュの意見に賛同した。

令月とすぐりまで…。

こいつらが言うなら、きっと本当なのだろう。

でも…。

「何で分かったんだ?」

お前達は、ナジュのように読心魔法は使えまい。

何を根拠に、あれが死体だと分かった?

「だって、匂いが」

「匂い?」

「死体の匂いがしたから。だよね、『八千歳』」

「うん。あれは間違いなく、死体の匂いだったね」

…そう言われて、俺ははっとした。

…そういえば。

あのジジィが部屋にいたとき、何処からか…腐敗臭のような匂いを感じた。

あれが、死体の匂いだったってことか。
「俺達は、誰よりもよく死体の匂いがどーいうものか、知ってるからね。間違いないよ」

「…」

…そうだな。

元暗殺者として、数々の屍と隣合わせに生きてきた、令月とすぐりが。

死体の匂いを間違える、ということは有り得ない。

じゃあ、やっぱり…。

ナジュ達の言う通り、あの族長は死体だったのか…。

そして。

「…私もそう思うよ」

「…シルナ…」

シルナまで…。

「族長は…いや、イーニシュフェルトの里の賢者達は…あのとき…確かに死んだ。全ての魔力を、私に託して」

「…」

「あの中に、族長の魔力もあった。確かに覚えてるよ。あのとき族長は、全ての魔力を使い果たして、消えたんだ」

…そうか。

…じゃあ、もう間違いないな。

「成程、死体ですか…。確かにあの男、徹夜明けの学院長のような、死んだ魚の目をしていましたね」

と、イレース。

「イレースちゃん…。私、そんな目してた…?」

「正体が死体だというなら、それも納得です」

イレース、シルナの質問を無視。

…どころか。

「死体なら、ますます遠慮する必要はありませんね。容赦なくぶちのめして、死人は棺桶の中に帰ってもらいましょう」

…相変わらずだが…本当容赦ねぇな。

でも今回は、俺もイレースと同意見だ。

相手が死体なら、遠慮する必要はない。

死体はさっさと、墓の中に埋葬されるべきだろう。
「で、でも…本当にあの人が死体なんだとしたら…何で、普通に歩いて…しかも喋ってたの?」

と、天音が当然の疑問を口にした。

…確かに。

死体が墓から出てくるなんて…ゾンビ映画じゃないんだから。

どうやって、墓の中から出てきたんだ。

イーニシュフェルトの里に伝わる、不思議な魔法か何か…?

里の魔導化学は、現在のルーデュニア聖王国のそれより、遥かに進んでいたという。

「もしかして…死者蘇生…的な魔法か?」

死者が墓の下から現れた…と聞いて、真っ先に思いつくのがそれだ。

いや…でも、死者蘇生の魔法は…。

「いいや、族長の力をもってしても…死者蘇生は出来ないはずだよ。少なくとも…私の知る限りでは」

と、シルナが答えた。

…そう、だよな。

死者蘇生の魔法云々については、クュルナの事件のときに思い知った。

イーニシュフェルトの里の叡智を持ってしても、死者の蘇生は出来ない。

…でも…シルナの、この煮え切らない反応を見るに…。

「全く不可能…って訳でもないのか」

「…そうだね…。私の知る限りではなかったけど、私の知らないところで、族長達が秘密裏に研究していた可能性はあるから…」

「あぁ、成程…」

同じ里の中でも、結構秘密主義なんだよな。

ましてやシルナは、今でこそ介護の必要なご老人だが。

イーニシュフェルトの里にいた頃は、シルナは若造の一人でしかなかった。

里の秘密の全てを、シルナに共有してもらえたとは思えない。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど…今はそれどころじゃないね」

「あぁ、そうだな」

本当に奴が死者蘇生の魔法を使って、再びこの世に現れたのだとしたら…。

…それって、結構大変なことなのでは?

族長の他にも、死んだ里の賢者達がわらわら出てきたら…。

「…でもね、羽久。今回は、死者蘇生に…思い当たる節があるんだ」

と、シルナ。

「思い当たる節?何だ?」

「あの族長は…ただの操り人形なんじやないか、って」

「操り人形…?」

「自分の意志でこの世に現れたんじゃなくて、誰かに操られてるんじゃないかってことだよ」

…。

…まぁ、可能性がなくはない、か。

死者蘇生の可能性さえ考慮してるんだから、操り人形だったとしても不思議じゃないよな。

そもそもイーニシュフェルトの里は、何が起きても不思議じゃない説まである。

「死体を操られてるってことか?誰かに?」

「うん」

もしそうだとしたら…。

操ってる奴は、相当趣味が悪いな。

何を思って、族長の死体なんか操ってるのか。

あの族長を見て、思わず幽霊なんじゃないかと思ってしまったが。

あながち間違ってなかったのかもな。

操られているとはいえ、死体が動くのなら、それはもう幽霊みたいなものだ。

どっちかと言うと、幽霊よりゾンビに近いけどな。

いずれにしても、笑えない冗談だ。
「操り人形だと推測する根拠は?」

と、イレースが尋ねた。

「族長達が研究していた死者蘇生の魔法が、本当に完成してたとは思えないし…。そもそも、完成してるなら、もっと早く現れたと思うんだよ」

確かに。

里が滅びてから、一体何千…何万年経ったことか。

死者蘇生の魔法で蘇ることが出来るなら、もっと早く出てくるだろう。

しかし、ジジィの姿を見たのは、これが初めてだ。

ってことは、墓の下から出てきたのは、つい最近の出来事だと思われる。

「そして…族長はあのとき…聖戦で、確かに死んだ。つまりこの度私達が見たのは、族長の死体以外の何物でもない」

「…」

「ナジュ君の読心魔法が通用しないのも、それから…」

「僕と『八千歳』が死臭を感じたのも、あれが死体だから…だよね?」

「…そういうことだね」

成程。

俺達が見たあの族長は、死体であると確定している。

じゃあ、何で死体が動いているのか?

…理由は簡単。単純明快。

死体を操り人形にして動かしている、悪趣味な誰かがいるから。

そう考えれば、辻褄は合う。

何だかんだ俺達、各方面に敵が多いからな。

誰に狙われたとしても、おかしくない。

シルナがイーニシュフェルトの里出身であることを知っていれば…族長との繋がりを推測するのも容易だ。

俺達の存在を知る何者かが、自分の意志で…あるいは誰かに頼まれて…。

わざわざ族長の死体を掘り起こして操り、俺達の前に現れたのだろう。

…本当に悪趣味。

今回の童話シリーズの一件で、色々な人ならざるモノと戦ってきた俺達だが。

さすがに、死体は初めてだぞ。

死体って、殺そうとしたら死ぬんだろうか?

既に死んでる者を、どうやって殺せば良いんだ?

文字通り、死体蹴りするしかない。

しかし…それで勝てるのだろうか…?

ナジュみたいに、殺しても殺しても蘇ったりして…。

意志を持たない操り人形なら、それも有り得るよな?

…どうやって倒したら良いのか、分からなくなってきた。

「死体を操ってる、悪趣味な野郎がいると仮定して…」

そいつの目的が何なのかも気になるが、その前に。

「…死体を、どうやって倒すんだ?」

もし自由自在に、どんな死体でも操ることが出来るなら。

それって、もしかして最強なのでは?

だって、死体なんて墓地に行けば、いくらでも埋まってるだろう。

そこから無限に、ゾンビ兵を蘇らせて。

それこそゾンビ映画みたいに、ゾンビによる軍隊を作ることも可能だろう。

うわぁ。想像しただけで気持ち悪い。

そういうのは安っぽい、B級ホラー映画だけで充分だ。
「…」

「…」

「…」

一同、しばし無言で顔を見合わせ。

死体の倒し方について考える。

「…完膚なきまでに叩き潰して、跡形も残さず塵にしてしまえば、操る死体ごと消し去れるでしょう」

真っ先に意見したのは、イレースだった。

まぁ、お前はそう言うと思ってたよ。

思慮深いように見えて、実は脳筋なんだよな。イレースって。

本人に言ったらしばかれるから、言わないけど。

「えぇっと…塩とか撒いたら良いんじゃないかな…?」

と、これは天音の意見。

「あとは、御札を貼るとか…」

「それは幽霊の倒し方なのでは?幽霊とゾンビ混同してますよ」

「えっ」

確かに、似たようなカテゴリーであることは否めない。

が、実体のない幽霊とは違って、ゾンビは触れられる肉体を持ってるからな。

塩を撒いても、効かない可能性大。

御札も無理なんじゃないかな…。

別に、この世に未練を残して現れた訳じゃなくて…。何者かの意志によって、操られてるだけなんだし…。

「じゃあ…ナジュ君は、どうやって倒したら良いと思う?」

「やはりゾンビと言えば、頭部の破壊ですよ。これが一番確実でしょう」

そうなんだ。

何でも頭を潰してしまえば、動かなくなるだろうと。

「リーチの長い鈍器がおすすめですよ」

ふーん。

「リーチの長い…。…それ知ってる。バールのようなもの、って奴でしょ?」

「成程ねー。じゃ、園芸部から鍬(クワ)を借りてきて、それで頭をぶん殴ろう」

元暗殺者組、過激。

お前らなら、何の躊躇もなくやりそうだな。

「えぇと…。それで倒せるの?」

「一体一体は無効化出来るでしょうが、数で圧倒されると面倒ですね」

だよな。

ここにいるのは頼もしい仲間ばかりだが、しかし、数としてはたったの七人だ。

おまけに、ここはイーニシュフェルト魔導学院。

多くの無関係な生徒達がいるのだ。生徒達を守らなければならない。

その状況で、無限ゾンビ軍団に襲いかかられたら…。

…うん、恐ろしいことになりそうだ。

笑えないぞ。

「ゾンビを撃退する、何かこう…画期的な方法はないもんか…」

やっぱりイレースの言う通り、丸焼きにするしかないのか?

…と、思ったが。

「…私の推測が正しければ」

シルナが、おもむろに口を開いた。

「何?」

「私の推測が正しければ…恐らく、ゾンビの軍隊と戦うことにはならないと思うよ」

「…そうなのか?」

それは…願ったり叶ったりだ。

誰も好き好んで、ゾンビとバトルしたくはない。

「いくら数が多かったとしても…そうだな。20人を下回るんじゃないかな」

20人か。

…それはそれで多くね?

でも、20人なら…ゾンビ軍襲来、なんていう笑えない事態は回避出来そうだ。

不幸中の幸いだな。

20人くらいなら、順番に脳天を叩き割って制圧…出来るか?

出来なくても、やるしかないのだが…。

俄然、何とかなりそうな気がしてきた。

「でも、イーニシュフェルトの里の賢者が20人で攻めてくると思ったら、結構キツいですよね」

という、ナジュの一言で。

やっぱり、どうにも出来なさそうな気分になってきた。

確かにそう思うと…無理ゲーにも程があるな。