…そして。
俺達は(と言っても、イレースとすぐりは元気だったが)、有言実行、丸二日間ベッドに転がり、静養に努めた。
努めて何も考えず、ただ眠ることに集中した。
再びベッドから起き上がったのは、二日間が過ぎてから。
約束通り、猶予をもらった最後の一日は…お待ちかねの話し合いの時間だ。
…まぁ、考えるだけで頭が重いから…あまり気は進まないんだけどな。
いつものメンバーが、いつもの学院長室に集結した。
一応…全員、普通に起き上がれるくらいには回復したらしいな。
「…ナジュ、お前身体…大丈夫か?」
この中で、間違いなく一番重症だったナジュに、そう尋ねた。
実は、まだ内臓がいくつか足りてないんじゃないだろうな。
こいつ、死に慣れているせいで、いくつか内臓がなくても普通に動き回るからな。
どうなってんだよ、お前の身体。
「あ、はい。平気ですよ」
さらっと、何事もなかったように答えたが。
「…大丈夫じゃないでしょ…。まだ全然治りきってないんだよ」
天音が、眉をひそめて言った。
「大袈裟ですね、天音さん。平気ですって」
「胃もないし、肝臓や膵臓もないのに、それは平気だって言わないよ」
やっぱり、内臓足りてないんじゃないか。
どうやって動いてるんだよ、お前は。
「でも、胃がないお陰で、今は胃が痛くなることはないですよ。いかにも胃痛が激しくなりそうな会議ですし、これはむしろ好都合…」
「そんな訳ないでしょ。だから、医務室で大人しくしててって言ったのに…」
天音が止めたのに、言うことを聞かなかった訳だな?
「こうも立て続けに、窮地に陥っているというのに…僕だけ休んでる訳にはいきませんからね」
「…あのな、お前…」
ナジュはそういう奴だよ。
適当な奴に見えて、実は誰より責任感があったりするのだ。
馬鹿だな。
こんなときくらい、自分の身体を労れよ。
確かに、俺達は今…相当厄介な窮地に陥っているが。
手負いのナジュに鞭打って、無理矢理戦わせるようなことはしないぞ。
いずれにせよ、今回お前の出番はない。
とりあえず、会議には参加させてやるが。
これが終わったら、天音の言う通り医務室で休んでてもらうぞ。
二度とナジュに、あの奥の手を使わせて堪るか。
何なら、そのまま一生使うなよ。
…馬鹿ナジュはともかくとして。
「…シルナ」
「…」
この二日間、めっきり無口になってしまったシルナに、俺はそっと声をかけた。
…これはまた、相当来てるな。
自分のせいじゃないのに、また何もかも自分のせいだと背負い込んで…。
気持ちは分かるが、でも今は…。
「あのな、シルナ…。お前は何も悪くない。お前が一人で背負い込んで、責任を感じる必要はな、」
「はい、そこまでです」
え?
シルナを励まそうとしたら、イレースに止められた。
これには、シルナもちょっとびっくり。
「な…何で止めるんだ?」
「時間がないからに決まってるでしょう」
…時間、って…。
そりゃ…もう24時間後には、再びイーニシュフェルトの里の族長が、ここを訪ねてくる…ことになってるが。
「私達には、要介護の老人を慰め、宥め、お優しく励ましてやる時間の余裕はありません」
「…」
イレース、きっぱり。
「落ち込んでいたいなら、一人でやっていなさい。そんな暇があるなら、私達はさっさと話し合いを続けます」
「…い、イレース…」
「大体、これで何回目ですか?昔のことを根掘り葉掘り聞かれては、いちいち落ち込んで、憔悴して、その度に羽久さんに慰めてもらって」
…それは…。
…何回目だろうな?確かに。
結構励ました気がするぞ、俺。
「全く、いい加減にしなさい。毎回毎回、同じような台詞で慰められ…。構ってちゃんですか、あなたは」
身も蓋もない。
イレースらしいと言えばイレースらしいが、あまりにも身も蓋もない。
「生憎今日は、構ってちゃんに構っている暇はないんです。めそめそしていたいなら、勝手にそうしなさい。でも…」
「…でも?」
「いっそ開き直って、あのうざったいジジィを撃退する方法を、共に考えると言うなら…話し合いの場に入れてあげましょう」
「…」
「その方が、余程建設的だと思いますが。どうですか?」
…イレース…。
…本当にな。お前の言う通りだ。
とんでもない荒療治だが…。今回は、効果覿面だな。
「…本当、そうだね」
余計に傷ついて、落ち込むかと思ったが。
シルナは、ふっと笑ってみせた。
この二日間で、シルナが微笑むところを初めて見た。
良かった…。
「耳が痛いよ、イレースちゃん…」
「話し合うつもりがあるんですね?」
「勿論、あるよ。…私も混ぜてもらって良いかな?」
「めそめそしないなら、良いでしょう」
「ありがとう」
相変わらず、スパルタ鬼教官のイレースだが…。
今回ばかりは、それが良い具合に転んだな。
シルナの調子も戻った。ナジュは…正直、今すぐ帰れと言いたかったが、言って聞く奴じゃないし。
まぁ、話し合いの場に参加するくらいは、許してやろう。
先の戦いで負傷していた、天音、令月の二人は、すっかりけろっとしているし。
イレースとすぐりは、元々元気だし。
俺は…俺も、この二日間でだいぶ良くなった。
完璧なコンディション…とまでは、行かないかもしれないが。
それでも、気を遣ってもらう必要はないくらいには、回復してる。
このメンバーなら、大丈夫だ。
多分、この世で一番信頼出来る。
相手がイーニシュフェルトの里の族長だろうと…遅れは取らないと誓おう。
…では、改めて。
「あの、里の族長についてだが…。…どうする?」
…と言っても。
聞くだけ野暮ってもんだな。
「どうするも何も、何人たりとも、学院に不法侵入して、私の完璧な授業計画の邪魔をするなら…粛清するまでです」
さすがイレース。即答だよ。
「え、あ、いや…。でも、一応、話し合いで解決出来ないかな…?学院長先生にとっては、同郷の人なんだから…」
心根の優しい天音は、暴力ではなく、話し合いで平和的に解決したい様子。
そうだな。それが出来るなら、多分一番良い。
シルナの苦しみを理解し、そして認めてもらいたい。
そうすれば、シルナも、誰も傷つくことはない。全てが丸く収まる。
しかし…。
「問題は、あのジジィが話し合いに応じてくれるか、だろ」
あの様子を見るに、とても話し合いをしてくれそうにないぞ。
問答無用で、殴りかかってきそうな勢いだった。
自称、イーニシュフェルトの誇り(笑)を何より重んじている奴らだ。
ヴァルシーナと言い、あのジジィと言いな。
そんな奴らが、里を裏切ったシルナを認め、和解してくれるとはとても…。
夢にも考えられない。
「無理かな…?やっぱり…」
「無理だろ…?あんなに拗れてるのに」
話し合うつもりがあるなら、先にそう言ってくるだろ。
それをせず、問答無用で殴りかかってきたのだから…。
あのジジィに、話し合いをするつもりはないと見て良いだろう。
血の気の多い奴だよ。
本当、ヴァルシーナにそっくりだよな。
あ、いや、逆か。
ジジィがヴァルシーナに似てるんじゃなく、ヴァルシーナがジジィに似ているのだ。
そんなに大事かね。イーニシュフェルトの里の誇りやら、威信やら。
俺にとっては、過去の栄光以外の何物でもないのだが。
とっくに新政権が発足して、何千年にもなるのに。
未だに、大昔の王家の血を重んじているような…そんな、時代錯誤を感じる。
いい加減、頭を最新バージョンにアップデートしろよ。
いつまで、昔の価値観まま生きるつもりだ?
すると。
「天音さん。話し合いは無理ですよ」
と、ナジュが当たり前のことのように、きっぱりと言った。
「え…そ、そうかな…」
「えぇ、無理です」
…やけに、はっきり断言するんだな。
そりゃ、話し合いに応じてくれそうな奴ではないが…。
でも、全く可能性が皆無って訳でも…。
「何で、そこまではっきり、無理だって言えるの?ナジュ君…」
という、天音の問いに。
「だって、死体と話し合いは出来ないでしょう?」
ナジュは、とんでもないことをさらっと言った。
…。
…死体?
…今、なんかとんでもない情報を聞いた気がするんだが。
…死体って言ったか?ナジュ。
「え…。し、死体って…どういうこと?」
これには、天音もびっくり。
イレースも眉を釣り上げていた。
…が。
ナジュ、シルナ、そして元暗殺者組の二人は、平然としていた。
え、マジ?
分かってなかったの、俺達だけ?
「言葉の通りですよ。あれは死体です。読心魔法が通じなかったので」
「…!」
お前…。
…あの状況で、ジジィに読心魔法を使ってたのかよ。
「いや、でも…。イーニシュフェルトの里の賢者は、どいつもこいつも、揃いも揃って小賢し…いや、ずる賢いし」
「えっ、ちょ。羽久、それ私も含まれてるの…!?」
当たり前だろ。お前が代表だ。
「もしかして、ナジュが読心魔法を使えることを知ってて、敢えて心を閉ざしてたんじゃないか?」
ヴァルシーナも、似たようなことやってたんだろう?
ヴァルシーナに出来ることなら、あのジジィにも簡単に出来るだろう。
…と、思ったが。
「いえ、そうではなく…心そのものがなかったんです」
「…心そのものが、ない…?」
「肉体は確かにそこにあるのに、中身は空っぽと言うか…。さながら、この間戦ったアリスのように…動く人形を見ているようでした」
「…人形…」
人形だと…?
イーニシュフェルトの里の族長の、人形。
存在するのだとしたら、随分悪趣味な人形だが。
有り得るのか、そんなこと…?
更に。
「不死身先生の言う通り。あの老人、生きてないよ。死体だ」
「そーだね。俺も初見で分かったよ。あれは死体だって」
令月とすぐりの二人も、ナジュの意見に賛同した。
令月とすぐりまで…。
こいつらが言うなら、きっと本当なのだろう。
でも…。
「何で分かったんだ?」
お前達は、ナジュのように読心魔法は使えまい。
何を根拠に、あれが死体だと分かった?
「だって、匂いが」
「匂い?」
「死体の匂いがしたから。だよね、『八千歳』」
「うん。あれは間違いなく、死体の匂いだったね」
…そう言われて、俺ははっとした。
…そういえば。
あのジジィが部屋にいたとき、何処からか…腐敗臭のような匂いを感じた。
あれが、死体の匂いだったってことか。
「俺達は、誰よりもよく死体の匂いがどーいうものか、知ってるからね。間違いないよ」
「…」
…そうだな。
元暗殺者として、数々の屍と隣合わせに生きてきた、令月とすぐりが。
死体の匂いを間違える、ということは有り得ない。
じゃあ、やっぱり…。
ナジュ達の言う通り、あの族長は死体だったのか…。
そして。
「…私もそう思うよ」
「…シルナ…」
シルナまで…。
「族長は…いや、イーニシュフェルトの里の賢者達は…あのとき…確かに死んだ。全ての魔力を、私に託して」
「…」
「あの中に、族長の魔力もあった。確かに覚えてるよ。あのとき族長は、全ての魔力を使い果たして、消えたんだ」
…そうか。
…じゃあ、もう間違いないな。
「成程、死体ですか…。確かにあの男、徹夜明けの学院長のような、死んだ魚の目をしていましたね」
と、イレース。
「イレースちゃん…。私、そんな目してた…?」
「正体が死体だというなら、それも納得です」
イレース、シルナの質問を無視。
…どころか。
「死体なら、ますます遠慮する必要はありませんね。容赦なくぶちのめして、死人は棺桶の中に帰ってもらいましょう」
…相変わらずだが…本当容赦ねぇな。
でも今回は、俺もイレースと同意見だ。
相手が死体なら、遠慮する必要はない。
死体はさっさと、墓の中に埋葬されるべきだろう。
「で、でも…本当にあの人が死体なんだとしたら…何で、普通に歩いて…しかも喋ってたの?」
と、天音が当然の疑問を口にした。
…確かに。
死体が墓から出てくるなんて…ゾンビ映画じゃないんだから。
どうやって、墓の中から出てきたんだ。
イーニシュフェルトの里に伝わる、不思議な魔法か何か…?
里の魔導化学は、現在のルーデュニア聖王国のそれより、遥かに進んでいたという。
「もしかして…死者蘇生…的な魔法か?」
死者が墓の下から現れた…と聞いて、真っ先に思いつくのがそれだ。
いや…でも、死者蘇生の魔法は…。
「いいや、族長の力をもってしても…死者蘇生は出来ないはずだよ。少なくとも…私の知る限りでは」
と、シルナが答えた。
…そう、だよな。
死者蘇生の魔法云々については、クュルナの事件のときに思い知った。
イーニシュフェルトの里の叡智を持ってしても、死者の蘇生は出来ない。
…でも…シルナの、この煮え切らない反応を見るに…。
「全く不可能…って訳でもないのか」
「…そうだね…。私の知る限りではなかったけど、私の知らないところで、族長達が秘密裏に研究していた可能性はあるから…」
「あぁ、成程…」
同じ里の中でも、結構秘密主義なんだよな。
ましてやシルナは、今でこそ介護の必要なご老人だが。
イーニシュフェルトの里にいた頃は、シルナは若造の一人でしかなかった。
里の秘密の全てを、シルナに共有してもらえたとは思えない。
「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど…今はそれどころじゃないね」
「あぁ、そうだな」
本当に奴が死者蘇生の魔法を使って、再びこの世に現れたのだとしたら…。
…それって、結構大変なことなのでは?
族長の他にも、死んだ里の賢者達がわらわら出てきたら…。
「…でもね、羽久。今回は、死者蘇生に…思い当たる節があるんだ」
と、シルナ。
「思い当たる節?何だ?」
「あの族長は…ただの操り人形なんじやないか、って」
「操り人形…?」
「自分の意志でこの世に現れたんじゃなくて、誰かに操られてるんじゃないかってことだよ」
…。
…まぁ、可能性がなくはない、か。
死者蘇生の可能性さえ考慮してるんだから、操り人形だったとしても不思議じゃないよな。
そもそもイーニシュフェルトの里は、何が起きても不思議じゃない説まである。
「死体を操られてるってことか?誰かに?」
「うん」
もしそうだとしたら…。
操ってる奴は、相当趣味が悪いな。
何を思って、族長の死体なんか操ってるのか。
あの族長を見て、思わず幽霊なんじゃないかと思ってしまったが。
あながち間違ってなかったのかもな。
操られているとはいえ、死体が動くのなら、それはもう幽霊みたいなものだ。
どっちかと言うと、幽霊よりゾンビに近いけどな。
いずれにしても、笑えない冗談だ。
「操り人形だと推測する根拠は?」
と、イレースが尋ねた。
「族長達が研究していた死者蘇生の魔法が、本当に完成してたとは思えないし…。そもそも、完成してるなら、もっと早く現れたと思うんだよ」
確かに。
里が滅びてから、一体何千…何万年経ったことか。
死者蘇生の魔法で蘇ることが出来るなら、もっと早く出てくるだろう。
しかし、ジジィの姿を見たのは、これが初めてだ。
ってことは、墓の下から出てきたのは、つい最近の出来事だと思われる。
「そして…族長はあのとき…聖戦で、確かに死んだ。つまりこの度私達が見たのは、族長の死体以外の何物でもない」
「…」
「ナジュ君の読心魔法が通用しないのも、それから…」
「僕と『八千歳』が死臭を感じたのも、あれが死体だから…だよね?」
「…そういうことだね」
成程。
俺達が見たあの族長は、死体であると確定している。
じゃあ、何で死体が動いているのか?
…理由は簡単。単純明快。
死体を操り人形にして動かしている、悪趣味な誰かがいるから。
そう考えれば、辻褄は合う。
何だかんだ俺達、各方面に敵が多いからな。
誰に狙われたとしても、おかしくない。
シルナがイーニシュフェルトの里出身であることを知っていれば…族長との繋がりを推測するのも容易だ。
俺達の存在を知る何者かが、自分の意志で…あるいは誰かに頼まれて…。
わざわざ族長の死体を掘り起こして操り、俺達の前に現れたのだろう。
…本当に悪趣味。
今回の童話シリーズの一件で、色々な人ならざるモノと戦ってきた俺達だが。
さすがに、死体は初めてだぞ。
死体って、殺そうとしたら死ぬんだろうか?
既に死んでる者を、どうやって殺せば良いんだ?
文字通り、死体蹴りするしかない。
しかし…それで勝てるのだろうか…?
ナジュみたいに、殺しても殺しても蘇ったりして…。
意志を持たない操り人形なら、それも有り得るよな?
…どうやって倒したら良いのか、分からなくなってきた。
「死体を操ってる、悪趣味な野郎がいると仮定して…」
そいつの目的が何なのかも気になるが、その前に。
「…死体を、どうやって倒すんだ?」
もし自由自在に、どんな死体でも操ることが出来るなら。
それって、もしかして最強なのでは?
だって、死体なんて墓地に行けば、いくらでも埋まってるだろう。
そこから無限に、ゾンビ兵を蘇らせて。
それこそゾンビ映画みたいに、ゾンビによる軍隊を作ることも可能だろう。
うわぁ。想像しただけで気持ち悪い。
そういうのは安っぽい、B級ホラー映画だけで充分だ。
「…」
「…」
「…」
一同、しばし無言で顔を見合わせ。
死体の倒し方について考える。
「…完膚なきまでに叩き潰して、跡形も残さず塵にしてしまえば、操る死体ごと消し去れるでしょう」
真っ先に意見したのは、イレースだった。
まぁ、お前はそう言うと思ってたよ。
思慮深いように見えて、実は脳筋なんだよな。イレースって。
本人に言ったらしばかれるから、言わないけど。
「えぇっと…塩とか撒いたら良いんじゃないかな…?」
と、これは天音の意見。
「あとは、御札を貼るとか…」
「それは幽霊の倒し方なのでは?幽霊とゾンビ混同してますよ」
「えっ」
確かに、似たようなカテゴリーであることは否めない。
が、実体のない幽霊とは違って、ゾンビは触れられる肉体を持ってるからな。
塩を撒いても、効かない可能性大。
御札も無理なんじゃないかな…。
別に、この世に未練を残して現れた訳じゃなくて…。何者かの意志によって、操られてるだけなんだし…。
「じゃあ…ナジュ君は、どうやって倒したら良いと思う?」
「やはりゾンビと言えば、頭部の破壊ですよ。これが一番確実でしょう」
そうなんだ。
何でも頭を潰してしまえば、動かなくなるだろうと。
「リーチの長い鈍器がおすすめですよ」
ふーん。
「リーチの長い…。…それ知ってる。バールのようなもの、って奴でしょ?」
「成程ねー。じゃ、園芸部から鍬(クワ)を借りてきて、それで頭をぶん殴ろう」
元暗殺者組、過激。
お前らなら、何の躊躇もなくやりそうだな。
「えぇと…。それで倒せるの?」
「一体一体は無効化出来るでしょうが、数で圧倒されると面倒ですね」
だよな。
ここにいるのは頼もしい仲間ばかりだが、しかし、数としてはたったの七人だ。
おまけに、ここはイーニシュフェルト魔導学院。
多くの無関係な生徒達がいるのだ。生徒達を守らなければならない。
その状況で、無限ゾンビ軍団に襲いかかられたら…。
…うん、恐ろしいことになりそうだ。
笑えないぞ。
「ゾンビを撃退する、何かこう…画期的な方法はないもんか…」
やっぱりイレースの言う通り、丸焼きにするしかないのか?
…と、思ったが。
「…私の推測が正しければ」
シルナが、おもむろに口を開いた。
「何?」
「私の推測が正しければ…恐らく、ゾンビの軍隊と戦うことにはならないと思うよ」
「…そうなのか?」
それは…願ったり叶ったりだ。
誰も好き好んで、ゾンビとバトルしたくはない。
「いくら数が多かったとしても…そうだな。20人を下回るんじゃないかな」
20人か。
…それはそれで多くね?
でも、20人なら…ゾンビ軍襲来、なんていう笑えない事態は回避出来そうだ。
不幸中の幸いだな。
20人くらいなら、順番に脳天を叩き割って制圧…出来るか?
出来なくても、やるしかないのだが…。
俄然、何とかなりそうな気がしてきた。
「でも、イーニシュフェルトの里の賢者が20人で攻めてくると思ったら、結構キツいですよね」
という、ナジュの一言で。
やっぱり、どうにも出来なさそうな気分になってきた。
確かにそう思うと…無理ゲーにも程があるな。