酷く息が荒く、肩で息をしているナジュは。

アリスを圧倒しながらも、誰より自分が満身創痍の状態に見えた。

口から血を垂らし、ところどころ身体の皮膚が破れて、血が滲んでいた。

…ナジュ、お前…!

「だ、大丈夫か…!?」

どう見ても大丈夫ではないが、俺は思わずそう尋ねていた。

しかし、ナジュは答えることもなく、こちらを振り向くこともしなかった。

…眼中にない、と言わんばかりに。

「不死身先生、止めた方が良い?」

「なんか、見るからにあぶなそーだよね」

令月とすぐりの二人も、ナジュを見つめてそう言った。

しかし。

「止めようとして、止まるものなのですか?下手をしたら返り討ちですよ」

「…有り得るな」

俺は、イレースの意見に頷いた。

恐らく今のナジュは、ほとんど意識を失っている。

「前の」俺と同様…理性ではなく、本能で動いているのだ。

俺達の声が届くとは思えない。

それに…無理矢理止めようにも、あんな鬼神状態のナジュを止めるのは命懸けだ。

イレースの言う通り、こちらが返り討ちに遭いかねない。

でも…だからって、このまま放置しておく訳には…。

「…っ!羽久危ない!」

「うわっ」

シルナに突き飛ばされて、俺は地面に伏せた。

ついさっき俺が立っていたところに、吹き飛ばされたティースプーンの柄が突き刺さっていた。

…あぶねぇ。

ナジュを止めるどころか、とばっちりでお陀仏しないだけで精一杯だ。

手をこまねいているうちに、アリスとナジュの戦いは佳境を迎えていた。

地面に倒れたアリスの金髪を、ナジュは獣のような腕で鷲掴みにし。

ぐるんぐるんと振り回して、空高くぶん投げた。

あの巨体をぶん投げるなんて、どんな腕力してるんだ。

空中に飛び上がって、ぶん投げたアリスに追いつくと。

アリスの身体を力任せに蹴り、殴り、歪な音がお茶会の会場に響き渡った。

俺達はその様子を、地面からハラハラしながら見ていることしか出来ない。

…やがて。

とどめとばかりに、両手の拳を合わせたナジュが、アリスの腹部を渾身の力で殴りつけた。

凄まじい勢いで、アリスの巨体が地面にめり込み。

そして…そのまま動かなくなった。