ナジュの身体のはずなのに、ナジュじゃない。

なら、答えは一つだけ。

ナジュの身体の中にいる、魂だけの存在。

…『冥界の女王』と呼ばれる魔物であり、そしてナジュにとって最も大事な人物。

…そう、リリスである。

やはりあれは…リリスの力なのか。

あの変異した魔力も、身体も、リリスの力なのだ。

…理屈は、理解した。

でも…。

「何でナジュが…魔物の…リリスの力を使えるんだ?」

魔物と人間は、当然ながら違う種族。

吐月のような召喚魔導師は、血と魔力を対価に、魔物に力を貸してもらうことが出来る。

でも…今のナジュは、通常の魔物との契約を交わしている状態ではないはずだ。

同じ身体に同居しているとはいえ、ナジュがリリスの力を勝手に使うことは出来ないはず。

不死身の身体は、リリスの力というよりは…そういう体質、と言った方が正しいし…。

これまでだって、幾度となくピンチに陥ったことはあるが。

ナジュにこんな…奥の手があるなんて、聞いたことも見たこともない。

ましてや、こんな…まるで獣のような姿。

普段のナジュからは、想像もつかない。

「使ってると言うか…無理矢理引き出してるんだろうね。リリスちゃんの力を…」

「そんなことが出来るのか…?」

「私も…さすがに、魔物と融合した人間はナジュ君が初めてだから…確かなことは言えないけど…」

だろうな。

魔物と契約することはあっても、人間と魔物が融合するなんて、前代未聞だ。

ましてや、リリスのように強力な力を持つ魔物が…。

「元々ナジュ君とリリスちゃんの融合は、魔物としても人間としても『中途半端』な状態だったんだと思う」

「…『中途半端』…」

「どっちつかず、と言っても良いね」

人間ではない、しかし魔物でもない…ってところか?

まぁ、そうだよな。

リリスの特性、体質である不死身の身体を継承していながら。

片や、ナジュ本来の特技である、読心魔法を使いまくっていたりするもんな。

良く言えば、人間であるナジュの長所と、魔物であるリリスの長所をかけ合わせたハイブリッド。

悪く言えば、人間としても魔物としてもどっちつかずな半端者。

そんな…不安定な状態だった。

だからこそ、このような芸当が出来る。

人の身でありながら…魔物の力を直接身体に宿し、行使するなどという…離れ業が。

…そんなことが出来たなんて…。

「…なんて強さだ…。信じられない」

リリスの力を纏ったナジュは、巨大アリスに猛攻を仕掛けていた。

長い爪を引っ掛けるようにして、アリスのワンピースを掴んで投げ飛ばした。

「あっぶな…!」

アリスの巨体が、お茶会のテーブルにめり込んだ。

すんでのところで、皿の上に乗っていた、いちごソースまみれのシルナを救出。

危うく、アリスの巨体に押し潰されるところだった。

ナジュ、お前…戦ってくれているのは有り難いが。

「俺達を潰さないように、ちょっと気をつけ…」

「…ふーっ…ふーっ…」

「…?」

半ば変身している状態なのだから、ナジュの様子が普段と違うのは当然だが。

それを差し引いても、ナジュは普通ではなくなっていた。