…忘れないで頂きたいのだが、僕の恋人であるリリスは、魔物である。

それも、ただの魔物ではない。

『冥界の女王』と呼ばれる…魔物の中でもトップクラスの実力を持つ魔物だ。

そしてリリスの二つ名は、『冥界の女王』だけではない。

またの名を…『獣の女王』。

かつて僕の生まれ故郷で、戦争に駆り出されたとき…。

戦う彼女の姿を見て、誰かがそんな風に呼び始めた。

敵味方問わず、だ。

尊敬と畏怖の念を込め、そう呼ばれ始めたのだ。

戦場に君臨し、鬼神のように敵を屠る『獣の女王』。

ただ、僕は一度も、リリスのその二つ名で呼んだことはない。

本人が、そう呼ばれることを望まなかったからだ。

だから自然と、生まれ故郷を離れて以来、他の誰にもそう呼ばれることはなくなった。

でも…彼女が『獣の女王』である事実に、変わりはなかった。

そう呼ばれても仕方ない存在だった。

何故なら。

敵の血飛沫を浴びながら、戦場を駆け回る彼女の姿は…誰がどう見ても。

『獣の女王』と呼ばれるに相応しいものだった。

皮肉な話である。

リリス本人は、獣とは程遠い、繊細な心の持ち主なのに。

ともかく。

今、そのリリスは…僕の中にいる。

故に、リリスが『獣の女王』としての力を振るうことは出来ない…。

…と、最初はそう思っていた。

リリスと融合し、リリスが『獣の女王』と呼ばれていた、あの生まれ故郷の世界を後にして。

一人ぼっちになった僕は、ご存知の通り…死ぬ方法を探して、放浪の旅を続けていた。

そんなとき、僕はふと思いついたのだ。

僕はリリスと融合することによって、不死身の身体になった。

元々不死身の肉体を持っていたのはリリスで、僕ではない。

つまり、厳密には…不死身なのは僕ではなく、僕の中にいるリリスの力なのだ。

融合することによって、リリスの不死身の肉体を継承出来るなら…もしかして。

リリスと融合した僕は、人の身でありながら、リリスの魔物としての力を扱えるのではないか?

そう思ったのである。