…しかし。

「うっ…ぐ…!!」

天音が展開した魔力の盾を、アリスは力任せに拳を固め、ガンガン殴ってきた。

あっという間に、盾にヒビが入る。

学院内でも指折りな、豊富な魔力を持つ天音の盾を、こうもあっさりと…!

そして。

「っあ…!!」

バキッ、と音がして、盾が壊れた。

「…天音さん…!!」

「天音!」

吹き飛ばされた天音が、派手にお茶会のテーブルに叩きつけられた。

令月のように受け身を取れなかった天音は、まともに衝撃を食らってしまったらしく。

「う…うぅ…。…げほっ…」

起き上がることが出来ず、息を荒くして血の塊を吐いた。

…不味い。

大丈夫か、と聞く余裕もなかった。

どう見ても大丈夫ではなかった。

恐らく、内臓が傷ついている。

下手に身体を動かすだけでも、致命傷に繋がる。

ナジュの左半身をふっ飛ばし、天音を無力化したアリスが、二人を捕まえようと両手を伸ばした。

「させませんよ」

「ちょっと、大人しくしてろっつーの…!」

アリスの右手を、イレースの雷魔法が。

アリスの左手を、すぐりのワイヤー攻撃が、それぞれかろうじて止めた。

同時にすぐりは、毒魔法をアリスの腕に注入した。

常人なら、あっという間にのたうち回ってお陀仏だろうが…。

「うわー…。毒効かないの?この化け物」

アリスの皮膚は、すぐりの毒で僅かに紫色になったが。

それ以外は何も起こらず、普通に動き回っていた。

ますますどうなってんだ、あの皮膚。

元『アメノミコト』暗殺者である、すぐり渾身の毒魔法さえ無効化するなんて。

…いや、そんなことより。

「天音さん、天音さんしっかりしてください」

ナジュが、天音に駆け寄った。

いや、ナジュ。早速再生しつつあるとはいえ、お前も左半身吹き飛ばされてるんだぞ。

「だい…じょう、ぶ…。僕のことは、良いから…逃げて…ナジュ君」

「…」

この期に及んでも天音は、自分のことよりナジュのことを気にしていた。

その姿を見て、俺は迷いを捨てた。

…ぐずぐず考えている暇はない。

やはり、俺が何とかしなくては。これ以上、仲間が傷つけられる前に…!

…しかし。

「…良いですよ、羽久さん…僕がやります」

ナジュは珍しく、真剣そのものの口調で言った。

…え…?

「やるって…お前、何を…」

まだ、左腕も満足に再生出来てないのに…何をやるつもりだ。

「出来れば…『二度と』やりたくなかったんですが…。手段を選んでいる場合じゃなさそうです」

「ナジュ…何言って…」

「それに…僕の大事な…親友を傷つけてくれたお礼は、きっちりさせてもらいますよ」

…お礼、って…。

本当に、何をするつもりなんだ?

…いずれにしても、最早悩んでいる暇はなかった。