「一度、態勢を整えて、何か対策を考えないと…!」

「対策って言っても…そんな悠長なことしてる余裕、ある?」

…それは…。

「その前に、学院長せんせーが美味しく食べられちゃうよ」

…確かに。

シルナが食べられてしまったら、元も子もない。

でも、だからって無策で挑んで、勝てる相手じゃない。

…こうなったら。

俺が「入れ替わって」…「前の」俺に何とか始末してもらうしかない、か。

非常に心許ない方法だが、作戦を立てる余裕もない今、それ以外に方法が…。

「…あまりにもリスキーですよ、それは」

「…ナジュ…!」

俺の心を読んで、作戦とも言えない作戦を立案したことを知ったナジュが、俺に向かって言った。

「でも、それ以外に方法がない」

「『前の』あなたに戻ったとして、仮に暴走したら、誰が制御するんです。学院長は動けないんですよ」

「…それは…」

これまでも、危機に陥ったことは幾度となくあった。

その度に「前の」俺に戻って、力ずくで解決してきたが…。

何だかんだそれが上手く行ったのは、シルナが制御してくれたからだ。

「前の」俺は、シルナ以外の周囲の被害を、一切考慮しない。

敵を倒す代わりに、うっかりナジュやイレース達を巻き込む可能性は、充分にある。

シルナが止めてくれなかったら、余計に。

おまけにここは、俺達が普段いる…通常の世界とは違う。

魔法道具である『不思議の国のアリス』が作り出した、仮初めの世界なのだ。

早い話が、何が起こるか分からないのだ。

「前の」俺に、そんな柔軟な判断が出来るだろうか?

正直、自信がない。

一番心配なのが、仲間を巻き込んでしまうことだ。

ナジュの言う通り…「前の」俺に頼るのは、あまりにリスキーな行為だ。

でも…それ以外に方法がないのも事実だ。

ゆっくり作戦を立てられれば、何とか対抗策を練ることも出来たのだろうが。

敵の攻撃を避け続けるだけで精一杯という、この状況で。

誰かが攻撃を食らう前に、今すぐ、何とかしなくてはならない。

焦りが募るばかりで、余計に作戦なんて考えられない。

リスキーだけど…でも、やっぱりこれ以外に方法がない。

いずれにしても、あいつ…「前の」俺は、ピンチになると自動的に出てくるのだ。

このまま手をこまねいていれば、恐らく出てくるだろう。

そして、力ずくでアリスを葬るのだ。

その際に、仲間を巻き込まなければ良いのだが…。

「くそっ…もう、やるしか…」

ない、と言いかけたそのとき。

…とうとう、恐れていたことが起きた。

「…っ!!」

「ナジュ君!」

アリスが闇雲に投擲したバターナイフが、ナジュの左半身をバターのごとく両断した。

その場に崩れ落ちるナジュを捕まえようと、アリスが手を伸ばした。

…そこに。

「させない…!!」

ナジュを庇うように、天音が前に出て…魔力の盾を展開した。