世にも恐ろしい、アリスのお茶会が始まってしまった。

まさか、こんな猟奇的なお茶会だったなんて。

こんなお茶会に参加する為に、苦労して招待状を手に入れたのか、俺達は。

食材になる為に、招待状探ししたんじゃないぞ。

しかもこのアリス…これだけデカい図体しておきながら、意外と動きが俊敏だった。

「…斬る」

「令月…!」

令月は両手に小太刀を持ち、加速して飛び、アリスの太い腕を一刀両断…しようとした。

しかし。

「…!?」

令月の小太刀は、アリスの腕をぶった切ることは出来なかった。

小太刀はアリスの腕の、三分の一くらいまで食い込み…しかし、そこから動かなかった。

…まさか、あの令月の刃を止めるなんて。

なんという、頑丈な腕。

「…っ」

押しても引いても動かなくなった小太刀を、令月はあっさりと手を離し、後ろに退こうとした。

だが、アリスの動きは早かった。

三分の一でも、腕に小太刀が食い込んで痛かったのか。

それとも、令月をハエのように鬱陶しく思ったのかは知らないが。

アリスは素早く手を伸ばし、令月を振り払った。

巨体に振り払われ、令月の小柄な身体が、勢いよく地面に叩きつけられた。

「令月!」

「『八千代』!」

相棒のピンチを見たすぐりが、すぐさま令月に駆け寄り、地面に糸繭を繰り出してクッション代わりにした。

「ぐっ…。く…」

すぐりに受け止められてもなお、激しい衝撃だったようで。

令月は珍しく、苦しそうに眉をしかめていた。

「令月、大丈夫か!?」

「だ…い、じょうぶ。受け身は取った…」

お前、あの一瞬で、よく受け身なんか取れたな。

令月持ち前の反射神経があるから、この程度で済んだのだ。

これが他の人間だったら、今頃、地面にへばりついてぺしゃんこだ。

…不味いぞ。

「うわぁ、魔法が全然通りませんね」

「まるで、全身に盾を持ってるみたいだ…」

ナジュが風魔法を、天音が光魔法をぶつけてみたが。

アリスは、何かしたか、とでも言わんばかり。

物ともせず、俺達を捕まえようと躍起になっていた。

あの巨体じゃ、並みの魔法じゃ通らない。

「うぅ、いてて…。うぇっ、ちょ、いちごソースが…!」

シルナはシルナで、いちごソースまみれで役に立たないし。

何より、ほぼ魔力を消耗し切っている今のシルナを、戦力として数えるのはあまりに酷だ。

ならば、俺達で何とかしなくては。

…と、言ってはみたものの…。

「くそっ…」

令月の小太刀でも、攻撃がまともに通らないのに。

正直、派手に動き回るアリスの魔の手から逃れるだけで、精一杯だった。

このまま逃げるだけじゃ、ジリ貧だぞ…!

「rhundet」

バチバチッ、と音がして、アリスの腕に電流が走った。

イレースお得意の、雷魔法である。

常人なら、あっという間にこんがり焼けてしまうほどの火力なのに。

巨体アリスにとっては、静電気がピリッと走ったようなもの。僅かに衝撃を受けただけだ。

…マジかよ。

その皮膚、一体どうなってるんだ。

それどころか、煩わしそうな顔をしてイレースを振り払おうとした。

「ちっ…」

咄嗟に時魔法を発動し、アリスの動きを止めようとしたが。

俺の時魔法を持ってしても、ほんの僅か一秒程度、アリスを止められただけだった。

一秒後に、普通に動き出した。

しかしその一秒の隙に、イレースは何とか離脱していた。

…助かった。