「不平等だ…。同じ魔法道具の作った世界なのに…。何で私達はドリームハウスに行けなかったんだ…」

…まだ言ってる。

お菓子の家、余程見てみたかったらしい。

まぁ、こんな不思議世界にでも来ない限り…リアルでお菓子の家なんて、なかなか見る機会はないもんな…。

「悔しい…。私は悔しいよ、羽久…」
 
「…あ、そ…」

「…そうだ!」

指をパチンと鳴らして、シルナは名案を閃いた。

「何だよ?」

「元の世界に戻ったら、令月君とすぐり君の目撃情報をもとに、お菓子の家を建設しよう!」

また馬鹿なことを言い出したぞ。

「よし、そうしよう。元の世界に戻ったら、お菓子の家の再現に全リソースを注ぎ込、」

「あら。ボケ学院長はここにいましたか。電気ショックを食らわせたら、下らない妄言も言わなくなりますかね」

「嘘、嘘です。嘘だよイレースちゃん!ちょ、杖出すのやめて!」

…。

…諦めろ、シルナ。

俺達の現実には、鬼教官イレースがいる。

お菓子の家なんてのはな、メルヘンの世界だからこそ許される…それこそ、文字通りのドリームハウスなんだよ。

諦めるんだな。
 
「…はぁ、やれやれ…」

いかにも下らない会話だが…今は、こんな会話が愛おしかった。

誰か一人でも欠けたら、そんな会話は絶対出来なかっただろうからな。

皆が揃って目の前にいて、無事だと分かっているから、こんな風に馬鹿話をして笑えるのだ。

…改めて、再び全員揃うことが出来て、良かった。

…と、思ったそのとき。

「…ケケケッ」

「…あ?」

何処かで聞いたことのある、耳障りな笑い声が聞こえた。

俺達は、笑い声の聞こえた方に視線をやった。

薔薇の木の上に、例のチェシャ猫がいた。

またしても、俺達を見下ろして、気色悪いにやにや顔。

…また出てきやがったな、こいつ。

「あ、あの化け猫…」

「焼き猫にしようと思ったのに、逃げられたんだよね」

何?

令月とすぐりの世界でも、あいつを見かけたのか。

それだけではない。

「あの猫…!確か、ウサギさんの村に…」

「僕は帰り際に見かけましたね。見たっていうか…ほぼ笑い声だけでしたけど」

「私も見ましたよ」

天音、ナジュ、イレースの三人も、それぞれの世界でチェシャ猫を目撃したらしい。

俺達だけじゃなかったのか…。

何なんだ、このチェシャ猫。

俺達を高みの見物して、一体何がしたかったんだ?

「よし、捕まえよう」

「今度こそ、焼肉パーティーだね〜」

血気盛んな令月とすぐりが、席を立ち、チェシャ猫を捕まえようと臨戦態勢に入る。

焼肉って、お前ら。

食うの前提かよ。

「ちょ、君達ちょっと落ち着…、」

シルナが二人を止めようとした、

…そのときだった。

突然空が陰って、視界が少し暗くなった。