すると、何を思ったか。

「よっと」

『八千歳』が、窓枠代わりの細いスティックチョコを、ポキッと折った。

これまた、簡単に折れるんだね。

「もぐもぐ」

スティックチョコを、ポキポキ音を立てて頬張る『八千歳』。

「どう?味…」

「凄い。りんごの味がするよ、これ」

と、『八千歳』が教えてくれた。

なんと。

「チョコじゃないの?」

「うん、りんごの味だ」

「…」

…もしかして。

僕は、ペンキ代わりに外壁に塗られた、白い生クリームを指ですくって、舐めてみた。

すると、あら不思議。

生クリームではなくて、カステラの味がした。

こんな味の生クリームが存在するなんて。

「ルーデュニア聖王国には、こういう珍妙なお菓子があるの?それとも…おとぎ話の不思議な力で、こんな変な味に変わってるの?」

「さぁねー。どっちでもおかしくないね」
 
僕達、あんまりお菓子には詳しくないもんね。

最近になって、よく学院長に食べさせてもらってるから、これでも分かるようになってきたけど。

ほんの少し前まで、甘いものはおろか、物を食べることもほとんどなかったから。

元々こういう食べ物なのか、それともこの世界に限った話なのか、分からないや。

しかし、お菓子の家というのは…あまり現実感がない。

これは、やはりおとぎ話の世界にのみ存在するのでは?

「…まーいーや。家を摘み食いしてる場合じゃない」

と、『八千歳』は食べかけのスティックチョコを、窓枠に戻した。

そうだね。

僕も、カステラ味の生クリームがついた指を拭った。

「この家に入っていったよね?あのウサギ」

「うん。そう見えたね」

「じゃ、あいつを捕まえて串焼きにしよう。そーしたら、何か分かるでしょ、多分」

僕も同意見だよ。

僕と『八千歳』は、再び臨戦態勢を取り。

白ウサギを追って、勢いよく板チョコの扉を開けた。