「…っ、足、はっや…!」

5分ほど追いかけっこしてもなお、僕達は白ウサギを捕まえることが出来なかった。

足が速い…と言うより、これは。

僕達が一定の距離まで近づいたら、強制的にワープしているような…。

そうでなければ、元『終日組』暗殺者である僕達の追跡を、こうも逃れ続けるなど有り得ない。

たかがウサギに出来る芸当ではない。

…どうやら、簡単に串焼きにはさせてくれないようだ。

…すると。

「…!これ…」

「…」

僕と『八千歳』は、追跡する足を止めた。

開けた場所に出ると、白ウサギはそこにあった、一軒の家の中に入っていった。

その家と言うのが…また不思議だった。

「…何、この家…お菓子…?」

「…みたいだね」

そこに建っていたのは、家だった。

ただの家じゃない。
 
お菓子の家だ。

外壁も、屋根も、窓も扉も、全てがお菓子で出来た家。

…ルーデュニア聖王国には、こんな家があるんだろうか?

見た目にはインパクトがあるけど、住むのはあんまり…実用的じゃないと思う。

虫とか寄ってきそうだし。放っといたらお菓子が腐りそうだし。

雨降ったらどうするんだろう。 

いかにも、学院長が好きそう。

「食品サンプル…とかじゃないよね?」

「さぁ…。ちょっと触ってみようか」

僕と『八千歳』は、謎のお菓子の家に近づき。

試しに、窓ガラス代わりのビスケットを、軽く叩いてみた。

ビスケットが割れた。

「…」

…食品サンプルにしては、脆い。

割れたビスケットの欠片を拾って、しばしじっと見つめ。

「…もぐ」

食べてみた。

驚くなかれ。

…甘い、プリンの味がした。

「…??」

同じく、ビスケットの欠片を口に含んだ『八千歳』も、首を傾げていた。

問題なく食べられるってことは、食品サンプルではないんだろうけど…。

ビスケットなんだから、ビスケットの味がするはずなのに。

何故か、プリンの味がした。

しかもかぼちゃプリン。

…何で?

「なんかこれ…プリンの味がする」

僕の味覚がおかしくなったのかと思いきや、『八千歳』も同じだったようだ。良かった。

「不味くはないけど、変な感じだね…」

「こういうお菓子なのかなー…?」

そうかもしれない。

かぼちゃプリン味のビスケット…何だかちぐはぐだね。