「『アメノミコト』の暗殺者は、皆殺される覚悟をしてる。殺される覚悟もなしに、人を殺す暗殺者なんていない」
「…令月…」
「だから、例え自分が殺されても、恨んで出てきたりしない」
…そう、なのか。
「そうだねー。俺も…もしかしたら、『玉響』が俺を恨んで出てきたのかと思ったけど…」
と、すぐりが言った。
「…!すぐり、それは…」
「あれは、そういう感じじゃなかったね。一体何の幽霊なんだか…」
「…」
…ますます、謎が深まるばかりだな。
ただ一つ言えるのは、あの黒い影は、愉快な理由で現れたのではないということだ。
きっと、この世を恨んだから出てきたんだろうし。
そう思うと、あの黒い影の正体を、知りたくもあり…知りたくない気持ちもある。
知らない方が良いことって、あるからな。
黒い影の正体も、知らない方が良いのかもしれない。
「さて、これからどうする?」
でも、逃げてはいられない。
もし本当に、何か理由があって、学院に出没しているのだとしたら。
その原因を突き止め、出来ることなら平和的にお引取り願いたい。
これ以上、幽霊騒ぎを広められたら敵わないからな。
「イーニシュフェルト魔導学院には幽霊が出る」なんて噂を広められたら、来年度の受験者数に響くぞ。
幽霊が出ると噂の校舎に、誰が好んで通いたいもんか。
生徒達を安心させる為にも、何とかしなければならない。
ましてや、学院長が全く頼りにならないこの状況だ。
俺達が何とかしなければ。
「僕と天音さんは、まだその影とやらを見ていませんからね。僕達も見たいものですね」
「そうだな…。じゃあ、明日からも深夜のパトロールは続行するか…」
生徒の身の安全を守る為にも、パトロールは続けた方が良いだろう。
今夜で終わると思ってたんだがな。やれやれ。
「そーだね。俺達も、気合い入れて巡回しよっかー」
「うん。次会ったら、捕まえてみせる…」
と、意気込みを語る元暗殺者組。
…お前らは、大人しく学生寮に帰ってろよ。
しかし。
「いやぁ、今回はお二人にも頼りましょうよ。夜の間は、僕達より遥かに頼もしいんですから」
「…そうだな…」
悔しいが、ナジュの言う通りだ。
シルナが全く頼りにならない以上、借りられる手は全部借りたい。
ましてや、夜の闇の中において、この二人に並ぶ者はいないんだし…。
もし、黒い影の正体が『アメノミコト』絡みなのだとしたら…令月達も、無関係ではいられないからな。
既に黒い影を目撃してしまった以上、ここで引き下がるのは、二人共納得しないだろう。
…仕方がない。
今回は…ってか、今回も、令月とすぐりを巻き込むことになってしまうようだ。
俺達が見た、あの黒い影の正体。
それを知ることになるのは、初めて黒い影を目撃した、翌週のことだった。
―――――放課後。
五年生の女子生徒三人組が、廊下を横切る「その人物」を見つけた。
「あ、学院長先生。こんにちは〜」
「こんにちは〜」
「その人物」…学院長シルナ・エインリーに声をかけると。
「…」
シルナは、無言でゆっくりと女子生徒を振り返った。
「丁度良かった。私達、これからおやつもらいに行っても良いですか?」
女子生徒の一人が、悪戯っぽく笑って、そう聞いた。
シルナがいつも、放課後の学院長室に生徒を呼び。
チョコレートやらお茶やら、何かしらのおやつを振る舞っていることは、イーニシュフェルト魔導学院の生徒なら誰もが知るところ。
ましてやこの三人組は、もう五年生。
おやつ目的で学院長室を訪ねても、全く罰されないどころか。
むしろ、来訪を歓迎され、喜んでお菓子を振る舞ってもらえることを知っている。
こんなフランクな会話は、イーニシュフェルト魔導学院では珍しくないのである。
だからこそ、この三人も、きっと喜んでシルナが学院長室に迎えてくれると思っていた。
…しかし。
シルナから帰ってきた返事は、三人の予想を大きく裏切るものだった。
「駄目だよ、そんなこと」
シルナは、笑顔でそう言った。
「え…」
「忙しいんですか?今日…」
面食らった三人が、驚いた顔をしていると。
そんな三人に、シルナは言った。
「学院長室は、君達の遊び場じゃないんだよ。君達も学生なら、遊んでる暇があったら少しは勉強しなさい」
「…」
「…」
「…」
シルナらしからぬ、この発言に。
三人共、思わず絶句してしまった。
そして、何事もなかったように立ち去っていく、シルナの背中を見て思った。
「…学院長先生、一体どうしちゃったの?」と。
――――――さて、こちらは学院長室。
学院の何処かで、三人の五年生の女子生徒が、愕然としてシルナの背中を見つめていたことも知らず。
俺達は、例の黒い影対策を考えていた。
…の、だが。
「お札。お守り。お札お守りお札お守り…」
「…」
「破魔矢。盛り塩。祓串…」
シルナは、もごもごと何かを呟きながら、巨大な段ボール箱を漁っていた。
何をやってるんだ、こいつは…。
あの後、目が覚めてからというもの。
シルナはずっと挙動不審である。
まず、物音に敏感になった。
ちょっと誰かの足音がしたら、もう、飛び上がる勢いで驚いてんの。
何なら、鏡に自分の影が映っだけで「うぴゃぁぁぁ!」とか言ってる。
重症だよ。
例の黒い影を見てからというもの、完全にガチビビリモードになってしまったらしい。
情けない学院長だよ…。
「よし、羽久。お札を貼りに行こう」
なんて言い出してるしな。
「お札って…お前…」
「魔除けのお札だから。神社に行ってもらってきたの。これを校内に…1メートルおきに壁に貼ろう!そしたら、もう何も出てこないはず!」
不気味な校舎だな、おい。
生徒達が悲鳴をあげるだろ。やめろ。
「それから盛り塩だ。全部の教室の四隅に、盛り塩を置こう」
だから、生徒がビビるからやめろって。
何が嬉しくて、盛り塩が置かれた教室で授業を受けなきゃならんのだ。可哀想に。
盛り塩が気になって、授業に集中するどころじゃないだろう。
しかし、誰よりも黒い影にビビっているシルナは。
「あとは、霊媒師だ。霊媒師を呼ぼう」
…なんか言ってるぞ。
霊媒師…?
「霊媒師にお祓いをしてもらおう!それが一番だよ」
お祓いって…。
まぁ、間違ってはないのかもしれないが…。
「やめなさい、馬鹿らしい。霊媒師なんて皆インチキです」
身も蓋もないイレースが、ばっさりと切り捨てるように言った。
ま、まぁ…。皆インチキかどうかは分からないだろ。
もしかしたら、中には本当に頼りになる霊媒師も、いるかもしれない。
だが、運悪くインチキ霊媒師に捕まってしまったら。
高額な霊感商品みたいなのを売りつけられて、詐欺に引っかかる可能性もある。
幽霊なんかより、そういう詐欺師の方が怖いよな。
しかし、シルナは。
「例えインチキでも良い!とにかく、霊媒師に来てもらいたい!」
血走った目で、血迷ったことを叫んでいた。
…お前って奴は…。
「…羽久さん。このつまらない男が、つまらない霊媒師なんて呼ばないよう、ちゃんと見張っていてください」
と、イレース。
「あぁ…分かったよ」
つまらない男だってさ、シルナ。
…すると、そこに。
「はぁ…。呼んでないときは来る癖に、来て欲しいときは来ないんですよね。廃品回収ですかね?」
「ま、まぁまぁ…。そう簡単にはね…」
うんざりした様子のナジュと、それを宥める天音が、学院長室にやって来た。
ナジュの言う、呼んでも来ない…というのは。
「そりゃ勿論、例の黒い影ですよ」
だよな。
結局あれ以来、ナジュと天音が黒い影を見る機会はない。
何なら俺達も、あれ以来黒い影の姿を拝んでいない。
深夜のパトロールは続けているのだが、何も出てこないのだ。
こう何日も何もないと、やっぱりあれは夢だったんじゃないか、という気がしてくるが…。
夢じゃないんだよな。
イレースも、令月もすぐりも、シルナも見たんだから。夢じゃない。
「さっき天音さんと、こっくりさんやったんですよ」
と、ナジュはとんでもないことを言った。
「は?何でそんな危険なことを?」
「幽霊が出てくるかと思って」
お前、自分が死なないからって、無茶をするなよ。
そして、天音を巻き込むな。
「でも、駄目でした。何も起きませんでしたね。ねぇ天音さん」
「うん…。僕は、何も起きなくて良かったと、心から思ってるよ」
だろうな。
ナジュの奴、「この藪にはヘビがいる」と分かるや否や、ヘビが出てくるまで藪をつつくつもりか。
さすが、イーニシュフェルト魔導学院の命知らず代表だな。
と、そのとき。
「やっほー」
「来たよ」
「うぴゃぁぁぁぁっ!!」
シルナの背後の窓から、元暗殺者組の二人がよじ登ってきた。
…お前ら…普通に来いよ。
何で、窓を玄関代わりに使ってるんだ。
情けない悲鳴をあげたシルナが、盛り塩をひっくり返しながら、俺に飛びついてきた。
あーあ…もう…。
「…?学院長、どうしたの?」
どうしたのじゃねぇ。お前らのせいだよ。
「どう?不死身せんせー。お化け見た?」
「見てません。何処にいるんですかそいつは」
「そっかー。俺も探してるんだけどなー。なっかなかいないんだよねー」
そう頻繁に出てこられたら、それはそれで困るけどな。
ナジュが言った通り。求めてるときには来ないんだよ。
呼んでないときは、あっさり来るのにな。
「って言うか…結局あの黒い影、何処に現れるのか分かんないんだよね」
「あ、それは僕も同感です」
すぐりとナジュが、気になることを言った。
…何処に現れるか…って。
「出てくるのは、第二稽古場じゃないのか?」
最初から噂になってただろ?第二稽古場。
「いえ、それが、そうでもないんです。会う生徒の心を読みまくってるんですが」
「うん。俺も糸魔法を張り巡らせて、『聞き込み』してるんだけど…どうも、情報が錯綜してるんだよね」
…情報が錯綜してる、だって?
「どうも、黒い影とやらが出没する箇所は、第二稽古場だけではないようですよ」
と、ナジュが言った。
何?
「色んな場所が噂になってるんですよ。第二稽古場だけじゃなくて、食堂、図書室、実習室、教室、階段…。果ては職員室付近で見たって噂もあるみたいですね」
「そ、そんなに…?職員室にまで出るのか…?」
そこまで色んな場所に出てきてるなら、もう、校内何処にいても不思議じゃないな。
「俺も糸魔法使って、色んな生徒が話してるのを盗み聞きしたけどさー」
盗み聞きはやめろよ。
いや、勝手に人の心を読むのもアウトだけどさ。
「どうも、一箇所に定まらないんだよね。色んなところで目撃情報が出てる。校内に安全地帯はないね」
マジかよ。
じゃあ、もしかして…。
「はい。学院長室にも、目撃情報があるみたいですよ」
まさかと思った俺の心を読んで、ナジュがそう言った。
「えぇぇぇぇ!」
勿論、今叫んだのはシルナである。
「盛り塩!盛り塩、盛り塩!」
必死になって、学院長室の四隅に塩を置いていた。
まぁ、あれだ。
あくまで噂になってるってだけで、本当に学院長室に、あの黒い影が出てきたのかというと…それは不明だな。
むしろ、噂になっていない場所を探す方が難しいくらいだし。
すぐりの言う通り、安全地帯はないと思った方が良い。
「実際俺達が見たのも、第二稽古場じゃなくて…正しくは、第二稽古場の渡り廊下だったもんな」
第二稽古場に限らず、黒い影の出現ポイントは、校舎内なら何処でも、ってことなんだろう。
恐ろしいことに。
盛り塩ぐらいで、どうにかなるのかは分からないな。
校舎の四隅に盛り塩をすれば、効果はあるんだろうか?
「何処に出てくるのか分からないんじゃ、何処に罠を仕掛ければ良いのかも分からないや…」
と、難しい顔の令月である。
幽霊って、そんな獣みたいに罠で仕留めるものだっけ?
まぁ良いか。
「出現する場所もそうですが、出現する条件や対象も見つけなくては」
「条件か…。そんなのあるのか?」
「分かりませんね。とにかく、再び会ってみないことには分かりません」
盛り塩が効くのかどうかも、試してみなければ分からないな。
「深夜のパトロールは継続。生徒達には、何も心配せず、目の前の授業に集中するよう伝えよう」
「…学院長がこれほど狼狽えてるんじゃ、集中するものも集中出来ませんけどね」
生徒の手本となるべき学院長が、生徒よりも、誰よりもビビりまくってんだもんな。
その分、俺達が代わりにしっかりしよう。
――――――…僕達が見た、謎の黒い影の正体も気になるけど。
「…うーん…」
「?どうしたの?」
最初に黒い影を見た夜からずっと、『八千歳』は難しい顔をしたままだ。
なかなかお化けが捕まえられないから、そのせいだと思っていた。
…しかし。
「ねぇ、ここだけの話なんだけどさー」
「何?」
「最近、学院長せんせーの様子、おかしくない?」
「…え?」
お化けの話、じゃなくて?
学院長の話?
しかも、様子がおかしいって…。
…学院長の様子…。
「…何かおかしい?」
お化けに過剰に怯えてるみたいで、そういう意味では、いつもとは様子が違うけど。
でも多分、『八千歳』が言いたいのは、そういうことじゃないんだろう。
少なくとも僕の目から見ると、特に様子がおかしいようには見えないけど…。
すると。
「だよね。俺もおかしいようには見えない」
…そうなんだ。
じゃあ、何でおかしいかどうか聞いたんだろう。
「でも、最近…糸で『聞き込み』してたら、どうも妙な噂が聞こえてきてねー」
「妙な噂?…それが、学院長の様子がおかしいってこと?」
「そーなんだよ。学院長せんせーが、最近変なんじゃないかって、生徒の間で噂になってる」
…そうなんだ。
そういえば、昼間…クラスの誰かが話してた気がする。
学院長が、最近変だって。
最近、お化けのせいで挙動不審になってるから、それで様子が変なんだろうと思って…あのときは聞き流してたけど。
「お化けのせいだけじゃないの?」
「そーだね。最近、人が変わったように…真面目になった、って言われてる」
…真面目…。
真面目な学院長か…。
「…それは気持ち悪いね」
「でしょ?気持ち悪いんだよ」
学院長が、学院長じゃないみたいだ。
やっぱり、学院長にはいつもの学院長でいてもらいたい。
「お化け騒ぎのせいで、情緒が不安定なのかな?」
「どーなんだろ…?」
うーん、と二人で首を傾げる。
「…とりあえず、様子見に行ってみよっか」
「うん」
学院長の様子がおかしいっていう、その噂が本当なのか。
確かめてみないことには、分からない。
『八千歳』と一緒に、学院長室に来てみると。
心配していた、学院長の様子を一番に確認したところ。
「盛り塩じゃ効果がないのかもしれない…。盛り塩じゃなくて…盛りチョコレートにすべきなのでは…!?」
「…」
小皿の上にチョコレートを乗せて、変なことを呟いている学院長。
…かと思えば。
「むしろ、和解を試みるべきかもしれない。チョコレートを一緒に食べれば、幽霊と言えども、仲良くなれるかもしれない…!」
と、宣う学院長。
変なことは言ってるけど、至って通常運転に見える。
ついでに。
「幽霊が、モノを食べられるのか…?」
と、ツッコミを入れる羽久も、いつも通りに見える。
特に変わった様子はない。
じゃあ、『八千歳』がさっき言っていたことは…?
学院長の様子がおかしいっていうあの噂は、本当なんだろうか。
僕の見たところでは、様子がおかしいようには、とても…。
「…」
「…」
僕と『八千歳』は、互いに顔を見合わせた。
そして、内心首を傾げていた。
一体どういうことなんだろ。これは。
すると、そのとき。
「いやはや、なかなか会おうと思っても会えないものですね」
「うん…。でもまぁ、僕は正直、幽霊を見たいとは思わないから…。見ないで済んでて良いのかも…」
あ、不死身先生と天音だ。
この二人のセットも、最近よく見るよね。
仲良しなのかもしれない。僕と『八千歳』と同じだね。
「あ、ナジュせんせーだ」
「どうですか?進捗状況は。幽霊は捕まえられそうですか」
「捕まえたいんだけどさー。捕まらないし…。それに、色々気になることもあるし」
「気になること?…あぁ、成程…」
『八千歳』の心を読んだのか、不死身先生は一人で納得していた。
…。
確か不死身先生も、生徒の心を読みまくって、目撃情報を集めてるんだっけ。
じゃあ、相談相手にはうってつけかも。
「…『八千歳』。不死身先生に…」
「そーだね。相談してみよう」
僕と『八千歳』は、学院長に聞こえないよう、小声でそう言った。
「ナジュせんせー、ちょっと外で話そう」
「良いですよ。…天音さんも連れてって良いですよね?」
天音?
「うん、いーよ」
「分かりました。じゃあ天音さん、ちょっと来てください」
「え?何で?どういうこと?」
「来たら分かりますから」
不死身先生は、強引に天音の背中を押して、学院長室の外に連れ出した。
僕と『八千歳』も、二人に続いて部屋の外に出た。
向かった先は、職員室。
ここまで来れば、羽久や、学院長本人にも聞かれずに済む。
「一体どうしたの…?」
天音だけは事情が分からないみたいで、首を傾げていた。
大丈夫。僕も、事前に『八千歳』に聞かされてなかったら、きっと同じく首を傾げていただろうから。
「ナジュせんせーは分かってると思うから、ズバリ聞いちゃうけどさー…。…学院長せんせーの様子がおかしいって噂、あれ本当なの?」
と、『八千歳』が尋ねた。
「えっ…。学院長先生の様子がおかしいって?」
不死身先生が答える前に、天音がびっくりして声をあげた。
不死身先生の意見を聞く前に、まずは、天音に説明するのが先だね。
「『八千歳』が糸魔法で情報収集してたら、お化けの噂に加えて、最近学院長の様子がおかしいんじゃないか、って噂も広まってるらしいよ」
と、僕は天音に説明した。
天音が信じるかどうかは、別の話。
「学院長先生の様子が…?確かに…最近は幽霊騒ぎのせいで、随分挙動不審になってるみたいだけど…」
「いや、それとは別にさ。なんか真面目になったんじゃないかって噂されてるんだよ」
「…真面目…?」
ますます、傾ける首の角度が大きくなっていく天音。
そっか。やっぱり天音も、そう思うか。
僕もだよ。
あの学院長の様子を見たところ、おかしいようには見えない。
至っていつも通りだよね。
すると。
「僕も気になってたんです。生徒の心を読むと、学院長が真面目になったとか、学院長が心変わりしたとか…そんなことを考えてる生徒が、一定数存在してまして」
と、不死身先生が言った。
『八千歳』に加えて不死身先生も、その噂を知っていた。
じゃあ、本当なんだ。
生徒の間で、学院長の様子がおかしいって噂が流れてるのは、本当なんだね。
「それ、どういうこと…?学院長先生が心変わり…?」
「僕にもよく分かりません。でも、生徒が嘘をついている訳じゃないことは、心を読めば分かります」
誰だって、嘘を噂話にはしたくないだろうからね。
噂をする生徒達は、本当に学院長の様子が変になったって思ってるんだ。
「そんな…。僕の目から見たら、学院長は普通だけど…」
「僕の目から見ても、普通ですよ」
「俺も。何なんだろーね?あの噂…」
「…」
ここにいる四人の目から見て、学院長は何ら変わりない。いつも通りの学院長だ。
それなのに一部の生徒は、学院長が真面目になった、心変わりしたと噂している。
その噂には、何らかの根拠があるはずだ。
最初に黒い影を目撃した人が、目撃情報を流したように。
学院長の心変わりについても、最初にそれを見つけた人がいるはず…。
それが誰なのかは、残念ながら分からない。