神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

攻撃を躱すだけなら、いくらでも避け続けられる。

僕でも、『八千歳』でも。

しかし、園芸部の部長は別だ。

彼女が狙われたら、ひとたまりもない。

人を守りながら、弾丸のような攻撃を避け続けるのは…さすがに苦しい。

今は何とかなってるけど、長くは持たないだろう。

早いところ決着をつけた方が良さそうだ。

もう、捕獲は考えないで良いね。

生死は問わない。

ホウキに生死があるのかは、甚だ疑問だけど。

「…『八千歳』!」

「任せて!」

園芸部の部長を、床に伏せさせ。

『八千歳』は即座に起き上がって、ホウキの襲撃に備える。

そのまま、『八千歳』は弾丸のように突っ込んでくるホウキの、真正面に立った。

大きな的を見つけた、とばかりに突撃するホウキ。

しかし、魔法のホウキは『八千歳』を貫くことは出来なかった。

弾丸の速度で飛んできたホウキを、『八千歳』は両手で受け止めた。

「白刃取りっ!!」

格好良い。

それ、僕もやりたかった。

けど、僕の役目はそれじゃない。

『八千歳』が、飛んできたホウキを白刃取りで止めた、その僅かな隙に。

僕の小刀が、ホウキを一刀両断した。

真っ二つに両断されたホウキが、今度こそ、力尽きたように床に落ちた。
――――――…下校時刻が過ぎ、生徒達が学生寮に帰った、その15分後。




「はー、美味しかった〜。やっぱり、チョコロールケーキは最高だね!」

「…」

今日もシルナは、チョコまみれのおやつに舌鼓を打ち。

たらふくチョコロールケーキを食べた後、満足そうな顔で、余ったロールケーキにラップをかけていた。

「この残りは〜、明日の朝ご飯にしよっと!」

「…」

…そりゃ良かったな。

溢れ返らんばかりにチョコ味のクリームがたっぷり入ったロールケーキを、よくもまぁ朝から食べられるものだ。

俺だったら、絶対気持ち悪くなる。

しかし、糖分に脳みそを侵食されているシルナにとっては、朝ロールケーキなんて普通なんだろうな。

…ロールケーキも良いが、少しは真面目な話をしようぜ。

結局、珠蓮に連絡しても大した情報は得られず。

むしろ、一体誰から、何処からイーニシュフェルトの里の遺産に関する情報が漏れたのかと、心配事は尽きない。

難しい顔を突き合わせて話し合おう、って訳じゃないが…。

さすがに、もう少し危機感を持った方が良いんじゃないか、という気がしてくる。

「今こうしてる間にも、新たな魔法道具が現れてるかもしれないのに…」

「…それはそうですけど、次何が現れるのかびくびくしているより、何が現れても落ち着いていられるよう、どっしり構えていた方が良いのでは?」

俺の心を読んだナジュが、そう言った。

そりゃまぁ、そうなんだけどさ…。

…更に。

「まだ見ぬ魔法道具など、どうでも良いことです。そんなことより、目の前の仕事をさっさと終わらせてください」

学院長室にやって来たイレースは、シルナのデスクに書類の束を置きながら言った。

現実主義者、イレース。

仰る通りである。言い返す言葉もない。

…それに。

「大丈夫だよ。怯えているよりは、落ち着いて過ごそう」

天音は、俺を安心させるように言った。

「天音…」

「何があっても、ここにいる皆が力を合わせれば、大昔の魔法道具にだって負けないよ、きっと。大丈夫」

…お前って奴は。

本当に、イーニシュフェルト魔導学院の清涼剤だな。

唯一の良心と言っても過言ではない。

「え?僕だって良心の塊では?」

「勝手に人の心を読む奴の、何処に良心があるって?」

お前はまず、その悪癖をやめることから始めるんだな。

…などと、ある意味でいつも通りの会話をしていた…。

…そのときだった。

学院長室の窓の鍵が、ガチャッ、と開けられた。


…音がした方に目をやると。

窓がガラガラと開いて、しゅたっ、と窓枠に何者かが足をかけた。

…まぁ、何者かなんて聞かなくても分かるが。 

鍵のかかった窓を開け、無断で侵入してくる人間は、このイーニシュフェルト魔導学院に二人しかいない。

そして侵入者は、案の定、その二人のうちの一人だった。

「令月…お前…」

「来たよ」

来たよ、じゃないんだよ。

来るなよ。

来ても良いけど、ちゃんとドアから入ってこい。窓から入ってくるな。

何度も言ってるのに、ちっとも聞く耳を持たない。

そして、もう下校時刻は過ぎてるからな。

来るなら、下校時刻になる前に来い。

何でここにいるんだ。学生寮に帰れ。

全く、他の生徒に示しがつかん。

「あのな、お前ら。いい加減夜間外出を…。…って言うかすぐりの奴は何処だよ?」

大抵、令月とすぐりはセットで行動しているのだが。

侵入してきたのは、令月の一人だけだ。

お前、相棒は何処だ?一人で来たのか。

珍しいことがあるもんだ。

…最初の頃は、一緒にいるときの方が珍しかったんだけどな。

今の令月とすぐりが、あれほど仲良くなっているなんて…。あのときの二人に話しても、信じなかったろうな。

それが今や、二人が唯一無二の愛棒になって、大変嬉しいことだが…。

…感慨に耽っている場合ではなかった。

「うん。そのことについて話そうと思って、急いで来たんだよ」

「?何?」

「『八千歳』は今、ホウキと戦ってる」

「…」

「ホウキを捕獲したんだ。人手が必要だから、ちょっと来てくれる?」

…俺も、シルナも、天音も、ポカーン顔。

シルナなんて、あまりに驚き過ぎて、チョコロールケーキの皿を落っことしていた。

あーあ、勿体ない…。

明日の朝ご飯は、別のものになりそうだな。

令月の心を読んで、瞬時に状況を把握したナジュと。

そして、大抵のことでは驚かないイレースだけが平然としていた。

全く、この二人の肝の太さと来たら。見習わせてもらいたいものだ。 

…令月の奴、今何て言った?

すぐりが、ホウキと戦って…ホウキを捕獲してる?

…ホウキ?

俺の…聞き間違いじゃない、よな?
「…」

俺とシルナと天音は、三人で顔を見合わせた。

床に落っこちたロールケーキを、令月がしゃがみ込んで、拾って摘み食いしていた。

しかし、そんなことにさえ気づかないシルナ。

「…ホウキ…今、ホウキって言った?」

「もぐもぐ。甘い」

「いや、ちょ、令月君。落っこちたの食べないで。冷蔵庫にまだあるから。食べたいならそっち食べて」

床に落ちていようが、気にせずもぐもぐしている令月。

つーか、まだ冷蔵庫にあるのかよ。このロールケーキ。

買い過ぎだろ。

いや、ロールケーキのことなんて今はどうでも良い。

それよりも、今令月が言ったことって…。

「令月、ホウキって…何のことだよ?」

「ホウキはホウキだよ」

「ホウキって、俺達が知ってるアレのことか?掃除するときに使う…」

暗殺者が使ってる俗称、とかじゃないよな?

本当に、俺達の知ってるホウキのこと…だよな?

「他にどのホウキがあるの?」

「…いや…」

…ほ、本当に…ホウキ?

「ホウキと戦ってるって…どういう意味だよ…?」

掃除してるってこと?掃除が終わらないから手伝ってくれ、とか?

しかし。

「そのままの意味だよ。ホウキが襲ってきたから、そのホウキと戦った」

「…!?」

「早く来て。園芸部の部長を守らなきゃいけないし、援軍が来たら不味い」

「…援軍…!?」

ホウキが何の援軍を呼ぶんだ?

…モップとか?

悪いけど、説明されても事情がさっぱり分からない。

何言ってるんだろう、令月の奴…。

「は、話はよく分からないけど…」

と、シルナが言った。

「とにかく、見てみないことには分からないや。令月君、すぐり君のところに案内してくれる?」

「うん、良いよ」 

そうだな。行ってみないと分からない。

逆に言えば、行ってみれば分かるってことだ。

「一応、皆も来てくれる?」

シルナは、俺達教師陣に向かって言った。

…分かってるよ。仕方ないだろ。
 
「あぁ、分かった」

「…仕方ありませんね」

俺だって、ホウキが何やら、という話の真偽が気になるし。

園芸部の部長…ツキナとかいう子だっけ?

あの子もいるのなら、助けに行かねばなるまい。

…しかし、ホウキを捕獲したって…。全く意味が分からないのだが…。

一体、どういう状況なんだ…?
令月についていって辿り着いたのは、第一稽古場だった。

…何でこんなところで、ホウキとバトルするようなことになるんだ?

深まる謎。

「『八千歳』。ホウキは?」

「あ、戻ってきた。うん、今のところだいじょーぶ。援軍もないよ」

「そっか。良かった」

「ふぇぇぇ、今の何だったの?」

稽古場の中に入ると、すぐりと、それからツキナという女子生徒がいた。

ツキナはすぐりにくっついて、動揺しているように見える。

詳しく、事情を聞きたいところだが…。

その前に、俺が気になったのは。

すぐりの足元に落ちている、真っ二つに両断されたホウキだ。

竹箒、って奴。

稽古場の周囲を掃く為の竹箒。

その竹箒は、スパッと綺麗な切断面を晒して、床に転がっている。

そして、無数に伸びたすぐりの糸で絡め取られ。

令月の言った通り、捕獲されてしまっている。

ホウキなのに。

…全く意味の分からない状況である。

「…お前らの戦ったホウキ、っていうのは…?」

「え?ここにあるじゃん。これだよ」

すぐりは、自分の糸が絡まったホウキの残骸を指差した。

うん…それは確かに、ホウキなんだけど。

でも、腑に落ちないことばかりだ。

「…ただのホウキだろ?」

何処からどう見ても、何の変哲もない、普通のホウキ。

何でこんなものと戦う羽目になったんだ?

「違うよ。襲ってきたんだよ」

すぐりが口を尖らせて、そう言った。

襲ってきた…ホウキが?

ホウキだぞ?ホウキなのに?

「いきなり痙攣したかと思ったら、ふわふわ浮いててさ。こっちに狙いを定めて、バビューン、って飛んできたんだよ」

「…」

状況を説明しようとしてくれてるんだろうけど、余計に分からなくなるばかり。

バビューンと飛んでくるホウキって、何だそれは。

最近のホウキは痙攣するのか?

「全く、危なかったよ。間一髪だったんだもん。ねーツキナ」

「う、うん。私死ぬかと思った〜!すぐり君、助けてくれてありがとう!」

「どーいたしまして」

…すぐりのみならず、ツキナまで。

ホウキに襲われたなんて、とても信じられないけど…。

令月もすぐりも、嘘をつく理由はないし。

ツキナにも当然、嘘をついて俺達を嵌める理由はないはず。

…ってことは、本当なのだ。

本当にこの三人は、ホウキに襲われたのだろう。

信じられないけど、信じるしかない。
…ともかく。

事情はよく分からないが。

「ツキナ、お前は学生寮に戻れ」

まずは、ツキナを安全な場所に逃がすのが先決。

援軍が来るにしても、こう言っちゃ悪いが…この場にツキナがいたら足手まといになる。

守るべき対象は、少なくしておきたい。

「で、でも…」

「もう下校時刻も過ぎてる。後のことは俺達に任せてくれ」

令月とすぐりは残ってても良くて、ツキナは駄目なんて、不公平かもしれないが。

令月とすぐりの二人は、それぞれ、自分の身は自分で守れる。

大体こいつらは、帰れと言って素直に帰る奴らじゃないからな。

無理矢理帰らせても、絶対また抜け出してくるに決まってる。

それに、襲ってきたホウキについても、もう少し詳しく話を聞きたいしな。

「だいじょーぶだよ、ツキナ。心配しなくても」

すぐりがツキナに向かって言った。

「すぐり君…」

「何が襲ってきても、俺が倒してあげる。だから安心して」

「…うん」

ツキナは、こくりと頷いた。

全くすぐりの奴、頼もしい限りだな…と思っていると。

「…こっそり自分の株を上げようとしている…。卑怯ですね」

ナジュがぼそっと呟いていた。

株って、何のことだよ?

何はともあれ。

「イレース。女子寮まで、ツキナを送ってやってくれるか?」

「良いでしょう」

道中、何か危険が降りかからない保証はない。

イレースに付き添ってもらえば、安全だろう。

「じゃーね、ツキナ。また明日」

「うんっ…。すぐり君、令月君、また明日ね。ばいばい」

ツキナは、令月とすぐりの二人に手を振り。

イレースに付き添われて、学生寮に戻っていった。

…よし。

ひとまず、これで…万一のことが起きても安心だな。

ここにいるメンバーなら、例え不測の事態が発生しても、自分の身は自分で守れる。

改めて…襲ってきたホウキとやらの話を、令月達に聞かせてもらうとしよう。
「…それで?俺達には、ホウキが襲ってきたっていう言葉の意味が、よく分かってないんだが?」

「言葉通りの意味だよ。いきなりホウキが襲ってきたんだ」

「…」

成程、分からん。

ホウキが襲ってきたって…それどういう状況だよ?

モノであるホウキ、それ自体に意思があるはずがない。

従って、本当にホウキが襲ってきたのだとしたら、誰かがホウキを操り…。

…と、思っていた、そのとき。

「…え?」

「…!」

すぐりの糸に絡め取られた、真っ二つのホウキの残骸が。

痙攣でもしているかのように、ぶるぶると震え始めた。

う…動いてる?

ホウキが?

まさか、令月とすぐりが言っていたのは…これのことなのか?

ホウキが勝手に動き出すなんて、どんなお伽噺だと思っていたら。

…ん?お伽噺…?

何だか嫌な予感がす、

「…は…!?」

痙攣したホウキは、ぶちぶちぶちっ、とすぐりの糸を引き千切った。

なんて強引な力技。

すぐりの糸を引き千切るとは、凄まじい力だ。

捕獲から免れたホウキの残骸が、空中に浮いた。

俺達は唖然としたが、しかしそれ以上に驚愕したのは。

真っ二つだったはずの、ホウキの切断面が。

瞬間接着剤で接着したかのようにくっついて、元の一本のホウキに戻った。

自己治癒能力のあるホウキなんて、初めて見た。

どういう仕組みなんだ?あれ。

いや、そんなことよりも。

復活したホウキが、拘束された恨みを返さんとばかりに、こちらに狙いを定めた。

次の瞬間、弾丸のような速度でホウキが突っ込んできた。

「あっぶな!!」

俺は床に突っ伏すようにして、ホウキの攻撃を躱した。

何だ、あの速さ。

何とか、野生の本能で躱したけども。

って言うか、あれを目視で躱した令月とすぐり、どんな動体視力してんだ。

などと、令月とすぐりに感心している場合ではない。

突如として暴走を始めたホウキを相手に、俺はどうしたら良いのか。

「凄いですね。こんな殺傷能力の高そうな空飛ぶホウキ、初めてみぶへぶは」

「わーっ!!ナジュ君大丈夫!?」

ホウキに感心し、腕組みをして高みの見物をしていたナジュの土手っ腹を。

神速のホウキが、ぶしゃっ、と音を立てて貫通した。

胴体に風穴を開けられ、ナジュはその場に崩れ落ちた。

何やってんだお前。避けろよ。仁王立ちしてないで。

ワンチャン串刺しで死ねる、とでも思ったのか。

例え死ぬにしても、ホウキに土手っ腹貫かれて死ぬのは勘弁だろ。

天音が慌てて駆け寄って、必死に回復魔法をかけていた。
ナジュの馬鹿への説教は、とりあえず後回しだ。

まずは、この暴走ホウキを止めなくては。

って言っても、どうすれば止まるんだ?

あのホウキ、令月が一刀両断して、すぐりが拘束していたにも関わらず、復活して暴走してるんだろ?

そこまでしても暴走するなら、もうどうやって止めたら良いのか分からない。

…こうなったら…!

「羽久…!あのホウキの時間を…!」

どうやらシルナは、俺と同じことに気づいたようだ。

それしかないよな。

時間を止める。あのホウキの周囲だけ、半永久的に。

そうすれば、さすがの暴走ホウキと言えど止まるはずだ。

俺の時魔法なら、それが出来る。

やれやれ、『シンデレラ』の時と言い、俺の時魔法が大活躍だな。

こういう活躍の仕方は、ご遠慮願いたい。

「eimt ptos」

俺は再度突進してきたホウキを、すんでのところで躱し。

杖を振り、ホウキの周りに流れる時間を止めた。

ホウキは硬直したかのようにピタッ、と固まって動かなくなった。

…よし、止まった。

「は、はぁ…。危なかった…助かったよ…」

と、安堵の溜め息をつくシルナと。

「だいじょーぶなの?これ。また動き出さない?」

「念の為に、切り刻んでおかなくて良い?」

ちょいちょい、と指先でホウキをつっつく元暗殺者組。

相変わらず怖いもの知らずである。

そして。

「大丈夫、ナジュ君?」

「いててて…。今、腸を修復してるところです。これが本当の腸活…」

「そういうのは良いから」

…あいつもあいつで、何をやってんだか。

つまらないこと言ってないで、さっさとそのはみ出した内臓をしまえ。

グロ画像みたいになってるぞ。

…すると、そこに。

「…何事です、これは」

「あ、イレース…」

ツキナを女子寮まで送っていったイレースが、こちらに戻ってきた。

内臓がはみ出しているナジュと、時魔法で時が止められているホウキを交互に眺め。

「…どうやら、またしても面倒事に巻き込まれたようですね」

と、いう判断を下した。

…その通りだよ、イレース。

面倒事や厄介事は、いつまでたっても俺達を放っておいてはくれないらしい。

さて、今回も今回でまたどうしたものか…。
ナジュの身体の修復が終わり。

一応、ホウキが勝手に動き出さないことを確認した後。

俺達は、ぴたりと静止したホウキを持って、学院長室に移動した。

またしてもホウキが暴走しては困るので、シルナが仮の封印を施した。

これで、ひとまずは安心だと思う。

でも、まだ油断は出来ない。

何せこのホウキは、普通のホウキではない。

ナジュの土手っ腹を貫いた、殺人ホウキなのだから。

殺人ホウキって何だよ。

「…で、シルナ。これは何なんだ?」

前置きなしに、俺はシルナにそう尋ねた。

シルナなら何か知ってるかと思って。

「暴走するホウキなんて、聞いたことがないぞ」

実際この目で見なければ、信じられなかっただろうな。

普通信じないだろう。「ホウキが暴走して…」なんて。

「何か心当たりはないのか?」

「…心当たり…なくはない、ね」

シルナは表情を曇らせて答えた。

…そうか。

やっぱり、そうか。

嫌な予感、外れてくれれば良いと思ってたんだが…。

「多分これは…童話シリーズの一つじゃないかと思う」

…やはりな。

嫌な予感ほど、よく当たるってね。

ま、そんなことだろうと思ってたよ。

「童話の名前にかこつけて、暴走するホウキを作るなんて…イーニシュフェルトの里の人って、発想が野蛮過ぎません?」

「折角技術と知識に優れている癖に、ろくなものを作らないんですから、全く救い難いですね」

ナジュとイレースは、非常に辛辣だった。

ま、まぁ…言葉は悪いけども、言いたいことは分かる。

正直、俺も同感だよ。

しかもこれ、子供の玩具なんだろ?

こんな玩具で育てられた子供の性格が、歪んでしまわないか心配だよ。

シルナは比較的まともに育ったようで、何より。

「学院長先生。このホウキは何という名前の魔法道具なんですか?」

「これは…恐らく『眠れる森の魔女』だね」

天音の問いに、シルナが答えた。

…ん?

なんか、聞き覚えがあるような…ないような…。

眠れる森の…。

「…美女じゃねぇの?」

「魔女だよ」

魔女なのかよ。

原作改編…?

「これは魔女のホウキだから。美女じゃなくて、魔女なんだ」

「…そんなのもあるのか…」

何だか、こじつけのような気がしなくもないが。

イーニシュフェルトの里の人間は、何考えてるか分からないからな。

シルナほど単純じゃないんだ。同じ里の出身なのに、おかしな話だよな。

ともあれ、彼らなら…このような魔法道具を作ることも不思議ではない。