魔法のホウキは、あっという間に『八千歳』の糸に絡め取られ、身動きが取れなくなった。

…呆気ないね。

「やれやれ…。ツキナ、大丈夫?」

「う、うぅ…。いてて…顔ぶつけちゃった…」

「ごめんごめん。きんきゅーじたいだったからさ」

園芸部の部長が、『八千歳』の手を借りて、よろよろと起き上がった。

危なかったね。

『八千歳』が咄嗟に突き飛ばしてなかったら、今頃脳みそぶち撒けてるところだった。

危機一髪、って奴だ。

「しっかし、何だったんだろーね、今の」

と、『八千歳』が腕組みをして言った。

…そうだね。

冷静に考えてみると、結構不思議な出来事が起きたよね、今。

ホウキに襲われた。

これだけ聞くと、頭おかしくなった人みたい。

でも、本当にホウキに襲われたんだよね。

『八千歳』の言う通り。何だったんだろう、今の。

ルーデュニア聖王国では、ホウキが人を襲う事件が起きるんだろうか。面白いね。

それとも、魔導人形と同じく。

あのホウキも、稽古場で使われる道具の一つなんだろうか?

あの速度で襲いかかられたんじゃ、怪我人どころか、死人が出そうだけど。

うん。謎が尽きない。

最近、そういうこと多いよね。

そして、それは大方、童話シリーズと呼ばれる魔法道具の…。

「とりあえず捕獲してみたけど、これ、どーしよ、」 

と、『八千歳』が言いかけたそのとき。

「…!?」

『八千歳』の糸に絡め取られたはずのホウキが、またしてもぶるぶると震え出した。

まだ、抵抗をやめないか。

だが、ホウキごときで、『八千歳』の糸の拘束から逃れられるはずが、

「…!ツキナごめん!もっかい伏せて!」

「ひゃっ!」

魔法のホウキは、ぶちぶちぶち、と『八千歳』の糸を引き千切り。

拘束してくれた仕返しとばかりに、『八千歳』に向かって体当りした。

『八千歳』は、園芸部の部長を抱き抱えて、床に伏せてその攻撃を避けた。

まさか。『八千歳』の糸を引き千切るなんて。

強行突破にも程がある。

「ちっ…!調子…乗ってくれてんじゃん!」

『八千歳』の背中から、黒いワイヤーが出現した。

『八千歳』の虎の子だ。

弾丸の速度で突進してきたホウキを、『八千歳』の黒いワイヤーが弾き飛ばし、軌道を逸らした。

だが、ホウキは負けじとばかりに、攻撃を躱しても躱しても、何度でも深追いしてくる。

この諦めの悪さ、尋常じゃない。

…さすがに、少し焦った方が良いかもしれない。