――――――…稽古場の掃除用具入れを点検しに来たら、謎の7本目のホウキが大暴走を始めた。

それはまさに、魔法で動いているかのようで。

一体どんな仕組みなのか、どういう意図があってこちらを襲ってきたのか、疑問は尽きない。

しかし、そんな疑問は全部丸めて後回しだ。

『八千歳』が臨戦態勢を取るのと同時に、僕も懐から小刀を取り出した。

残念ながら今は、愛用の小太刀が手元にない。

別に構わない。

小太刀がないなら、今手元にあるもので応戦するまで。

それに何より、ここには『八千歳』がいる。

それだけで、僕は負ける気がしない。

ただ、気をつけなければならないのは、この場にいるのが僕と『八千歳』の二人だけではない、ということだ。

床に伏せている、園芸部の部長。

彼女を守りながら戦わなくては。

すると。

「…!来る!」

真っ直ぐに、こちらに狙いを定めたホウキが。

弾丸のような速度で、僕めがけて突っ込んできた。

僕は床を滑るようにして身体を倒し、ホウキの体当たりを避けた。

しかし。

攻撃を外したホウキが、ぎゅるんと方向転換。

再び狙いを定め、僕に向かって飛んできた。

僕が体勢を崩したから、追撃すれば当たると思ったんだろうか。

ホウキなのに、そういう考えが働くんだね。

とはいえ、それは浅はかというもの。

体勢を崩したからって、簡単に僕を討ち取れると思わないで欲しい。
 
「…ふっ…!」

床に倒れたまま、僕は横に一回転して身を滑らせ、二撃目を躱した。

そんな真っ直ぐな攻撃、当たらないよ。

業を煮やした魔法のホウキが、三度目の正直とばかりに突っ込んできたが。

僕は床に手を付き、飛び起きた勢いで、そのまま前に前転。

すんでのところで、攻撃を避けた。

少しも恐ろしくない。

その程度の攻撃、何回やったって当たらない。

むしろ回数を重ねるごとに、ホウキの速度に慣れてきた。

大した速さだけど、でも照準は甘い。

真っ直ぐにしか飛ばないなら、攻撃は予測しやすい。

…それに、何より。

「『八千代』ばっかり狙ってくれてんじゃん。俺もいるって忘れてないよね?」

この場にいるのは、僕だけじゃない。

『八千歳』の糸が、ホウキの柄に絡まった。