案の定、稽古場に怪しい人影は認められなかった。

ま、そりゃそうだ。

ツキナも安心したのか、緊張を解いて掃除用具入れの点検を始めた。

しっかし、稽古場にも掃除用具入れなんてあるんだなー。

どの学年が掃除してんだろ?

稽古場って、広いし、精密な魔導人形とかもあるから。

俺達みたいな低学年じゃなくて、高学年の先輩達が掃除してるのかもね。

さて、それはともかく点検だよ。

「えーと、稽古場の掃除用具は…ホウキが6本と、モップも6本、雑巾が5枚、ちりとりが2つだから…」

ツキナは、クリップボードを確認しながら言った。

「モップって、このオオゲジみたいなもじゃもじゃのホウキだよね。6本あるよ」

「雑巾も…5枚あるね。どれもまだ綺麗だよ」

『八千代』と俺が、それぞれ確認した。

「ちりとりも2つあるよ」

じゃ、あとはホウキが…6本だっけ?

「えぇと…1、2、3、4、5、6…7本?」

ん?

ツキナは、指差ししながらホウキの数を数えていた。

今、7って言った?

「6本じゃなかったの?」

「そのはずなんだけど…。あれ?7本ある…?」

と、首を傾げるツキナ。

一本足りないならまだ分かるけど、一本多いのは、どうしたことか。

何処から紛れ込んだんだろう?

ツキナに言われて、俺と『八千代』もホウキの数を数え直す。

1、2、3…。…本当だ、7本ある。

一本多い。

「おかしいなぁ。何処のホウキだろう?隣の第二稽古場かな?」

「どーだろ?第二稽古場の方も点検しにいっ、」




…と、言いかけたそのときだった。



掃除用具入れに入っていた、一本のホウキが。

突如として、痙攣でもするかのように震え出した。

「っ!ツキナ!!」

「ほぇ?」

俺は咄嗟にツキナの身体を突き飛ばすようにして、稽古場の床に伏せた。

次の瞬間、丁度ツキナが立っていた場所を。

例のホウキが、凄まじい勢いで通り過ぎていった。