さ、気を取り直して、点検しよっか。

校内至るところに設置されている掃除用具入れを一つ一つ巡っては、中身を確かめる作業である。

決して楽しくはない。楽しくはないけど…。

「ホウキ良し!バケツ良し!雑巾よーし!」

ピシッ、ピシッと指を差しながら確認する、ツキナの姿を見ていると。

やっぱり、ついてきて良かったなーと思う。

可愛過ぎるでしょ、これ。

「すぐり君!ちりとりは?」

「あるよ、ここに」

「ちりとりよーし!」

はいはい、ちりとりよーし。

ツキナはこのまま、穢れを知らない純朴な大人に育って欲しいね。

「…むっ!これは!」

美化委員ツキナが、何かを見咎めた。

「ん?どーしたの?」

「このちりとり、ヒビが入ってる!」

あ、本当だ。

余程使い古されたか、あるいはこのちりとりで、誰かの脳天をぶっ叩いたんだろう。きっと。

「よし、一年Aクラスのちりとりに、ヒビ有り…と」

ツキナ、クリップボードにメモメモ。

「よし!次に行くぞ!」

「次は何処?」

「お隣の、一年Bクラスである!」

はいはい。じゃあ移動しよっか。

俺達は三人で、一年Bクラスの教室にお邪魔した。

「たのもーっ!失礼する!」

と、ツキナは、教室にいる生徒達に挨拶してから入室。

これは挨拶に入るのかって?

無言で入るよりマシでしょ。

上級生がいきなり入室してきたので、教室の中にいた一年坊主達は、若干戸惑っていた。

別に、抜き打ち検査に来た訳じゃないから。

そっちの邪魔はしないから、ふつーにしてて良いよ。

「美化委員と、そのしもべである!掃除用具入れの点検に参った!」

ツキナは一年坊主達に、そう説明した。

そーなんだけど、多分ふつーに喋って良いと思うよ。

一年坊主達、超戸惑ってる。

変な先輩が来たなぁ、と思ってるのかも。

変だけど、でも可愛いからアリ。

「点検、点検〜♪」

鼻歌交じりに、ツキナは教室の隅に設置された掃除用具入れを開いた。

さて、また数を数えるか…。

「ちりとり良し!雑巾も…良し!ホウキもよ…」

もよ?

「…良くない!一本足りない!」

お、マジで?

早速、掃除用具の不足が発覚。

こういうことがあるから、定期的な点検が必要なんだね。

「一本足りないとは…!何処だ?何処かに紛れ込んだのかな」

「そーかもね」

廊下の掃除用具入れにでも、紛れ込んでるんじゃないだろうか?

…と、思ったら。

「あのぅ…。ホウキが一本足りないのは、先月、古いホウキが折れてしまって、それを捨ててしまったからだと思います」

一年坊主の一人が、ツキナにそう申し出た。

なーんだ、そうだったんだ。

チャンバラごっこでもしてたら、折れちゃったんだろうな。