――――――…ツキナが可愛い。

もう一度言うけど、ツキナが可愛い。

…え?何で2回言うのかって?

大事なことなんだから、何回言ったって言い過ぎにはならないんだよ。

何ならもう一回言いたい。

「点検!点検!て〜んけん!皆の者!点検の時間じゃ〜!」

クリップボードを片手に、ツキナは大はしゃぎだった。

ツキナが嬉しそうで何より。

「よし、すぐり君。令月君。点検にゆくぞ!戦の準備はよいか!?」

「うん、いつでもいーよ」

「…戦…?戦いに行くの?」

分かってないなー、『八千代』は。

そこは、ツキナに合わせて頷くところだよ。

…え?点検って何のことかって?

しょーがないなぁ。教えてあげるよ。

掃除用具の点検だよ。

これから俺とツキナと『八千代』の三人で、校内全ての掃除用具入れを点検するんだよ。

ホウキや雑巾、バケツなどの掃除用具が、規定の数揃っているか。

足りないものはないか。あるいは、古くなっているものはないか。

それら全てを確認して、ツキナが持っているクリップボードに、それぞれ記入する。

これが、本日の業務。

従って、今日は園芸部の活動はお休みである。

ツキナと一緒に、畑仕事に精を出すのもいーけど。

たまには趣向を変えるのも、悪くないよね。

やっぱり刺激が大事だよね。いつもと違う刺激。

…え?掃除用具の点検で、ときめきも糞もないだろうって?

分かってないなー。

好きな人と一緒だったら、例えそれがゴミ拾いであっても、有意義な時間になるんだよ。

ナジュせんせーに聞いてみると良い。あの人なら分かってくれるよ。

…え?そもそも、何で掃除用具入れの点検なんかするのか、って?

それは良い質問だねー。

ツキナが美化委員だからだよ。

美化委員の仕事らしい。この点検。僕達はそのお手伝い。

これで疑問は全部解決した?したよね?

…しかし。

「…ねぇ、『八千歳』」

と、『八千代』が声をかけてきた。

まだ何か、聞きたいことがあるらしい。

いーよ。何でも聞いてよ。

「何?」

「何で、僕達まで点検メンバーに加えられてるの?美化委員じゃないのに」

成程、それは良い質問だ。

簡単なことだよ。

「強いて言うなら…そこにツキナがいるから、かな?」

好きな女の子がそこにいるから、俺もその隣に行くだけ。

ツキナの仕事を手伝って、媚を売りたいだけ。

ね?シンプルでしょー?この上ない理由だね。

…それなのに。

「…??」

まだまだお子様の『八千代』は、いまいち理解出来ないようだった。

やれやれ、『八千代』が大人の階段を上るのは、いつになることやら。