『何者かは知らないが、警戒しておくに越したことはないだろう』

「そうだな…」

絶対、ろくなこと考えてないに決まってる。

出来れば一生会いたくないが、そういう訳にも行くまい。

「…一応聞いておくが、珠蓮」

『何だ?』

「お前は、イーニシュフェルトの里の封印のことを…。ミルツ以外の誰かに喋ったことはあるのか?」

もし珠蓮が、誰かに里の遺産のことを喋っているなら。

そいつが犯人、って可能性も考えられる。

…の、だが。

『いや。俺は自分の弟子以外に、賢者の石の存在を話したことはない。みだりに口にして良いことじゃない』

…そりゃ疑って申し訳ない。

「そうか…。…そうだよな…」

あの珠蓮が、賢者の石や、イーニシュフェルトの里の遺産について、べらべら言い触らすはずがない。

じゃあ、一体何処から話が漏れ…、

『…だが、ミルツが誰かに話しているのだとしたら、それは俺の感知するところではない』

と、珠蓮は続けて言った。

…これは盲点だった。

そうだ。珠蓮の弟子であるミルツが、里の遺産について他言した可能性はある。

『サンクチュアリ』のメンバーの誰かに。

そして、ミルツから里の遺産について聞いたその誰かが、また別の人間に話して…と。

ネズミ算式に、情報が広がっていく恐れがある。

…こうなると、もう情報の大本を断つのは無理だな。

「ってことは、イーニシュフェルトの里の遺産について、誰が知っててもおかしくないのか…」

『…とはいえ、『サンクチュアリ』の人間は、里の遺産の価値を知らないだろうがな』

「そうだな…。じゃあ俺達を攻撃してきたのは、遺産の価値を知っている者…」

…つまり、それなりの知識と技術を持っている者、ってことになるな。

厄介極まりない。

珠蓮に相談することで、何か解決すれば良いと思っていたのに。

むしろ、余計に不安が募っただけ。

悲しいもんだ。

「いっそ…自分の方から出てきてくれれば良いのにな…」

しかし、そう簡単には行かないのが現実というものである。