『…成程。それはまた…難儀なことだな』

俺達が立て続けに童話シリーズに襲われている、という話をすると。

「彼」は、同情するようにそう言った。

…だろ?

難儀してるんだよ、俺達。

「これ、一体どういうことなんだと思う?…珠蓮(しゅれん)」

俺は、手元にある賢者の石…の、欠片に向かって尋ねた。

賢者の石を用いて、俺達が話している相手の名は、寿木(ことほぎ)珠蓮。

童話シリーズと同じく、イーニシュフェルトの里の遺産、賢者の石を持つ珠蓮に…俺は意見を求めた。

珠蓮なら、里の遺産について詳しいだろうと思ったからだ。

「最初は、賢者の石の封印が解かれた影響だと思ってたが…いくらなんでも殺意が高過ぎないか?」

『…そうだな。そうも立て続けに、封印された遺産が出現するとは…。…誰かが意図してお前達を攻撃しているかのようだ』

珠蓮も、俺と同じこと言ってる。

やっぱりそう思うよな?

これを偶然と呼ぶには、運命の女神様に嫌われ過ぎてるような気がするんだが?

「残念ながら、俺にもシルナにも、心当たりがなくてな…。珠蓮、お前には何か心当たりはないか?」

珠蓮なら、俺達の知らない情報を持っている…。

…と、思ったが。

『いや…残念だが、俺にも思い当たる節はないな』

「…そうか」

それは…残念だな。

まぁ、珠蓮の専門は、あくまで賢者の石だからな。

童話シリーズの封印を解いたのが誰か、分からないのも無理はない。

…しかし、珠蓮はこう続けた。

『だが…もしお前達に悪意を持って、何者かが里の遺産を差し向けているのだとしたら…その人物は、相当の手練だと思うぞ』

…とのこと。

…なんか、また嫌なことを聞いてしまったな。

「…そうなのか?」

『あぁ。まず、イーニシュフェルトの里の遺産について、情報を持っているというだけでも…只者ではないだろう』

…言われてみれば。

賢者の石のときだって、俺にとっては寝耳に水だったからな。

イーニシュフェルトの里に、封印された魔法道具が存在している。

この情報を持っているのは、他ならぬ里の生まれであるシルナと、ヴァルシーナ。

そして、里の長老に封印を託され、長きに渡って受け継いできた人物。

イーサ・デルムトと…その弟子である珠蓮。

更に、その珠蓮の弟子だったミルツくらいだ。

限られた人物しか、その存在を知られていないはずの魔法道具。

おまけに、その魔法道具の封印を解き、自在に操って俺達を襲った。

そんなことが出来る人間が、このルーデュニア聖王国にどれだけいるか。

そう思うと、犯人は随分絞り込める気がする。

…まぁ、誰なのかは分からないけどさ。