呼びかけて出てくるかどうかは、正直賭けだった。

羽久・グラスフィアは、自分の意志でもとの自分を…二十音・グラスフィアを呼ぶことは出来ない。

二十音が好きなときに、好きな時間だけ出てくる。

羽久は自分の人格を選べないし、しかも、別人格と「入れ替わってる」ときの記憶はない。

…しかし。

このベリーシュは、どうだろうな?

もしベリクリーデが、ベリーシュの存在を知らず、好きなときに入れ替わることが出来ないのなら。

ベリクリーデはきっと、ベリーシュって何のことだ、と首を傾げるかと思ったが。

「聞こえるか、ベリーシュ。聞こえてるなら出てこい。返事しろ」

「…どうかしたの?ジュリス」

ベリーシュだった。

ベリーシュが、ベリクリーデの意識を奪い取って表の世界に現れた。

「お前…。そんなに自由に入れ替われるのか」

「そういう訳じゃないけど…。まぁ、君が呼ぶなら出てくるよ」

…ふーん。

「ベリクリーデは、まだお前の存在を知らないのか?」

自分の中に、別人格が潜んでいることに。

…もし気づいたら、ショック受けるだろうな。

自分の身体が、自分だけのものじゃないなんて…誰だってショックだろう。

「朧気には気づいてると思うよ。普段はあまり意識してないだけで…」

「…」

まぁ、あいつあれで、結構勘が鋭いからな。

自分の中にいる別人格に、いつまでも気づかないとは思えない。

「お前は…ベリクリーデと同じ景色を見て、感覚を共有してるらしいな?」

「そうだよ。だから…ベリクリーデがミミズを捕まえて、マグロを釣ろうとしてることも知ってるよ」

「…それを知って、今どんな気持ちだ?」

もう一人の自分は、なんて馬鹿なんだろうと呆れてるだろうか?

…しかし。

「面白いよね、魚釣り。マグロじゃなくても、私も何か釣れると良いな」

釣り竿を弄りながら、楽しそうに言った。

ベリーシュも、満更でもない様子。

…まぁ、そりゃそうか。

二十音が羽久を生み出したように、ベリーシュを生み出したのはベリクリーデだ。

言わば、ベリクリーデはベリーシュの親みたいなものた。

自分の親に反するような考えは、元々起きないのかもしれない。

「ジュリスが気にしてるのは、例の魔法道具のことなんだよね?」

と、ベリーシュの方から口を開いた。

「…それは…」

「大変だよね。何が怖いって、まだ出てくる可能性があること…。次は何だろうね」

…。

ベリクリーデはともかく、このベリーシュとは…建設的な話が出来そうだな。