…と、思っていたら。

「ジュリス、マグロ釣れた。マグロ」

「タナゴだ、それは」

一応、何かは釣れるようだな。

多分、生き餌が良いんだろう。

あるいは、俺の手作り釣り竿も、なかなか捨てたもんじゃないのかもしれない。

「たなご?美味しいの?」

「食べられなくはないが…そんなに綺麗な川じゃないからな。食べるのはやめておいた方が…」

「お刺身にしよーっと」

「おい、待てこら」

川魚を刺し身にするんじゃねぇ。

絶対生臭い。

そして、釣れたのはタナゴだけではない。

「ジュリス、マグロ釣れた」

「それはフナだ」

「ぱるかっちょにしよーっと」

「やめろ。あとカルパッチョな」

言いたいことは分かるが、それは違うものだ。

心配するな。釣った魚は、俺が責任持って、帰るときにリリースしておく。

カルパッチョ食べたいなら、別の魚で作ってやるよ。

「…やれやれ、ったく…」

楽しそうに釣り糸を垂らすベリクリーデを、しばらく横目で眺め。

…俺は、イーニシュフェルト魔導学院に現れた、童話シリーズの魔法道具とやらのことを、再び思い出した。

「…なぁ、ベリクリーデ」

「マグロ来い、マグロ。クジラでも良い」

夢が大き過ぎるだろ。

「話を聞けよ」

「?何?」

「お前、イーニシュフェルト魔導学院の…例の魔法道具について、どう思う?」

「…??」

…おい。何で首を傾げてるんだ?

お前、『オオカミと七匹の子ヤギ』に酷い目に遭わされたってのに。

もう忘れたのか。鳥頭かお前は。

「お前、ちょっと前に断絶空間に送られただろ?」

「うん。記憶喪失になってたときね」

そう、それだ。

「お前にあんなことをした犯人は、童話シリーズっていう魔法道具の一種なんだ」

「そっか。悪い人だね」

人ではないけどな。

まぁ、人ってことにしておこう。

「その悪い人が、また現れたらしい」

「えっ」

「今度はシンデレラだったらしいぞ」

しかも、羽久の奮闘がなければ、危うくイーニシュフェルト魔導学院の七人が、永遠に魂だけの存在になるところだったとか。

随分と危ない橋を渡っていたもんだ。

「そうなんだ。それは困ったねー」

「…」

困ってるように聞こえないぞ。その間の抜けた返事。

「一体、何処から出てくるんだろうな…あの魔法道具…」

今のところ、危ない橋を渡りながらも、何とか対処しているが。

いつ、手に負えない事態に陥るかと思うと…心穏やかではいられない。

…それに。

俺には、童話シリーズの件とは別に…気を揉んでいる事柄がある。

それが何かと言うと、勿論。

「…ベリーシュ。出てこい」

俺はベリクリーデに向かって…いや。

ベリクリーデの中にいるもう一人に向かって、そう呼びかけた。