「あそこに…多分…」

ガラスの靴が…あるいは…。

ガラスの靴の在処を示す、ヒントが…あるのではないか、と。

そう思ってしまうのは、自分に都合の良い希望的観測をしているだけなのかもしれない。

が、俺だって、もうあと何分も持たない。

正直、次の瞬間には集中力が途切れそう。

今、何分だ?

もう10分なんか通り越して、軽く一時間は経ってるような気がする。

そんなはずはないのに。

「ここに…!」

シルナはショーケースに駆け寄り、ガラスを粉々に砕いた。

ここまで焦っているシルナは、なかなか珍しい。
 
青い薔薇のブローチの代わりに、自分が学院のエンブレムですと言わんばかりに、偉そうに鎮座するかぼちゃを持ち上げ。

「ふっ…。…えいっ!」

シルナはかぼちゃを振り上げて、思いっきり床に叩きつけた。

かぼちゃになんてことを、と思うかもしれないが。

そのかぼちゃは、本物ではなかった。

どうやら、ガラスで出来ていたらしく。

床に叩きつけると、甲高い音がして粉々に砕けた。

ガラスの靴のみならず、ガラスのかぼちゃとは…。

シンデレラの奴、どんな趣味をしてるんだ…。

…と、思ったそのとき。

砕けたかぼちゃの中から、鍵付きの木箱が転がり出た。

「…!」

誰もが、その木箱に釘付けになった。

…あれは、まさか。

あれこそが、本物の…。

…そう、思ったとき。

「…ぐっ…!」

安心して、気が抜けてしまったのか。

ガラスのかぼちゃに気を取られて、集中力が途切れてしまったのか。

視界が狭窄し、世界を止めていた時魔法がぐらついた。

…不味い。途切れる。

「…シルナ…!早く…」

「…!分かった!」

シルナが木箱を開け、ガラスの靴を見つけるのが先か。

俺の時魔法が解け、制限時間を迎えるのが先か。

正直、俺には分からなかった。