一瞬だけ、魔力消費による疲労を忘れ。

何であんなところにかぼちゃがあるんだ、と考えた。

誰かの悪戯か?

ブローチの代わりに、かぼちゃを飾って…。

いや、誰がそんな馬鹿馬鹿しいことを…。

そもそもあのショーケース、鍵がかかっているんだから、そう簡単に開けることは出来ないはず…。

それに、何でかぼちゃなんだよ。

ハロウィンでもあるまいに…。

…いや、待て。

かぼちゃ…かぼちゃ…。…何か引っ掛かる。

…そうだ。

俺は、はたと思い当たった。

思い出した。

かぼちゃと言えば、シンデレラに出てくる、馬車…。

ガラスの靴と同じく、シンデレラのキーアイテム。

どちらも、シンデレラを変身させた魔法使いの魔法によって作られた産物…。

…そのかぼちゃが、何であんなところに…。

…まさか。

あれは、ガラスの靴の在処を示すヒント?

…分からない。魔力を消費し過ぎて、頭がおかしくなってるのかもしれない。

でも…いずれにしても、俺はもう長くは持たない。

心当たりがあるなら、何でも確認しておくべきだ。

「…シルナ…!かぼちゃ…」

俺は、死にそうになりながら声を絞り出した。

我ながらガラガラの、酷い声だった。

が、形振り構ってる暇はないよな。

「え?な、何?羽久」

「か、かぼちゃが…。あそこに…」

「かぼちゃ…!?」

そりゃびっくりするよな。当たり前だ。

頭がおかしくなったんじゃないか、と思ってるかもしれない。

うん。そうかもしれない。

限界が近い俺の脳みそが、幻覚を見せているだけなのかも。

でも。

「ショーケース…青い薔薇の…。あの場所に、か、かぼちゃが…」

俺は、息も絶え絶えにシルナに伝えた。

「えっ、えっ…?」

頼むから、気づいてくれ。

いや、俺の幻覚なのか?

死ぬ前にかぼちゃの幻覚を見るなんて、そんな人生は嫌だ。

「もしかしたら、あの薔薇の場所に…ガラスの、靴が…」

「薔薇…?学院エンブレムの?」

「…あぁ…」

シルナは、ガラスのショーケースに視線を移した。

すると。

「…!本当だ、何でこんなところにかぼちゃ…?」

どうやら、あのかぼちゃ、シルナにも見えたようだな。

良かった。頭がおかしくなった、俺の幻覚ではないらしい。