泣いて終わるか、笑って終わるか。

いずれにしても、今やらなければ、泣いて終わる結果になるのは目に見えている。

じゃあ、やるしかないよな?

…未だかつて、こんなに緊張した時魔法があっただろうか?

これほど明確に、死の危険に瀕したことも、なかなかないもんな。

非常に、スリルのある展開だ。

もう二度と御免だな、こんなことは。

俺は、ナイフを取り出して手首を切った。

滴り落ちる血に、魔力を込める。

これは、一種の禁じ手だ。

血に魔力を込めることで、魔法の威力を増大させることが出来る。

やり過ぎると、魔導師と言えども普通に出血多量で死んでしまうので。

生徒には、こんなやり方は教えていない。

でも今は、形振り構ってる余裕はないから。

出血多量で気絶したとしても、死ぬよりはマシだ。

残り時間は、あと30秒を切った。

…さぁ、やろうか。

「eimt…ptos」

杖を軽く振ると、俺の周りに溢れた血が、黒く光り出した。

止める。

この世界の時間を止め、そしてこの場にいる七人の時間だけは、そのまま動かす。

こうすれば、制限時間は止まったまま、シルナ達は自由に動くことが出来る。

これがナジュの言う、制限時間の延長だ。

失敗すれば、その時点で俺達の命運は終わりだったが。

「…止まった…!」

「やれば出来るもんですね」

…かろうじて俺は、制限時間の延長に成功した。

よし、止まった…。

どうやら、俺達の命運は、まだ尽きていないようだ。

…しかし。

「ぐ、うぅぅぅ…。死にそう…亅

俺は、今にも限界を迎えそうな状況だった。

…魔力の、消費が…あまりに激し過ぎる。

無理矢理制限時間を止められた世界が、俺に抗議するように抵抗してくる。

それを抑え込んで、時間を停め続けるのは…至難の業だった。

「羽久…!大丈夫?」

大丈夫?じゃねぇよ。

「大丈夫じゃない…。これ…持って、あと10分…」

10分…も、持つだろうか?

正直、今にも負けてしまいそうだ。

…でも。

「玄関の捜索が終わるまでの時間持てば、それで良いでしょう」

「…そうだね」

あくまで、見落としはない前提。

この場所を探し終えれば、それで良い。

「あと10分…頑張って、羽久」

…全く、難しいことを言ってくれる。

「…分かったよ」

…持たせる。絶対。

失敗すれば死ぬんだから、死ぬ気でやれば良いのだ。