時魔法が使えるかどうかは、さっき試しただろうが。

世界に拒まれて、魔法が使えない…。

…はずだ。

「大した問題じゃありません」

俺の心を読んだナジュが、珍しく真面目な顔で言った。

「やらなかったら死ぬんだから、やるしかないでしょう。それで無理なら、諦めもつきます」

「…」

…そうだな。その通りだ。

どのみち、もう迷っている時間はないのだ。

「羽久…」

シルナが、硬い表情で俺を見つめた。

「…そんな顔をするなよ」

失敗するにしても、タイムオーバーするにしても。

少なくとも、お前と一緒に死ねるなら、それは悪くないと思ってるんだぞ。

お前を一人、残して死ぬよりは。

俺が一人、残されて死ぬよりは。

生きるも死ぬも一蓮托生なら、恐れるべきことは何もない。

ナジュの言う通り、やれることは全てやってから死のう。

…時間は、あと2分を切った。

もうやるしかない。

「ここで死ぬのかー。別に良いけど、ツキナが寂しがらないか心配だな…」

「呆気ない死に方だね。まぁ、人生の最後なんてこんなものか」

元暗殺者組二人は、意外にあっけらかんとしていた。

一応手元を動かしてはいるが、ある程度淡々と死を受け入れているらしい。

まぁ、あの二人はそうだろうな。

…一方で。

「私はまだ死ぬつもりはありませんよ」

イレースは、意地でも死ぬ気はないらしい。

そして。

「僕も…。まだ、やり残したことがたくさんあるから」

天音も、まだ諦めてはいなかった。

…そうだな。

やれることが残っている限り、諦めるにはまだ早い。

「羽久…。お願い」

「…あぁ、任せろ」

真っ直ぐに俺の目を見て頼むシルナに、俺は頷いてみせた。

やれるのかは分からない。また、この世界に拒まれておしまいかも。

…が、やらないよりはマシだ。
 
俺は、杖を固く握り締めた。

…残り時間は、あと1分だ。