…お前…。

俺達が皆思っていて、しかし口に出さずにいたことを。

「残り時間はあと2分ちょっと。制限時間内に見つけるのは、もう無理です」

…それは。

「グズグズ言ってる暇があったら、手を動かしたらどうです?」

至って冷静な口調で、イレースが言った。

イレースは、諦めるということを知らないな。

「あなたは死を切望しているのかもしれませんが、私はこんなところで死ぬつもりはありません。ましてやこのメンツでお陀仏なんて、申し訳なくて先祖に顔向け出来ません」

それはどういう意味だよ。

「失礼ですね。僕が死を切望しているのは確かですが、僕だって、死んで幽霊になるのは御免です」

「じゃあ、何ですか」

「残り時間はあと2分。でも、僕達は幸い…残り最後、この玄関以外は探し尽くしています」

…それは、そうだが。

残すところは、あとこの場所だけだ。

「だとすれば、多分ガラスの靴はここにあるんでしょう。この玄関付近に」

「それは…分からないだろ。もしかしたら、見落としがあるかも…」

と、俺は口を挟んだが。

「そんなこと言ってたら、キリがないですよ。もし見落としがあるなら、そのときはさすがに諦めましょう」

ナジュは頭を軽く振って、そう言った。

割り切ってんな、お前。

「あと、探してないのはこの玄関だけなんだから…。せめて死ぬなら、この玄関だけは探して死にたいでしょう?」

「…」

「やれることを残して死ぬより、やれることは全てやり切って死んだ方が、後悔しませんからね」

…そうだな。

俺はまだ死にたくないが、それ以上に、死んでから後悔したくはなかった。

あの玄関にあったかもしれないのに…と思いながら彷徨うなんて、死んでも死に切れない。

いや、魂だけの存在になって彷徨うんだから、元々死に切れないんだが。

「でも…どうするんだ?タイムリミットは、もう…」

秒針があと2周もすれば、日付が変わるんだぞ。

「延長ですよ、制限時間の延長。残り時間、あと10分…いえ、5分でも延長すれば、残る玄関付近を探すくらいは出来るでしょう?」

「…!」

制限時間の、延長…。

そりゃ、そんなことが出来たら、玄関を探し終えるくらいは出来るかもしれない。

「延長って、どうやって…」

「それはあなたの専売特許でしょう?お得意の時魔法で…この世界の時間を遅らせてください」

「…!」

…涼しい顔をして、無茶言いやがる。