シルナは、校舎一階にある食堂を探していた。

「シルナ」

「羽久…」

シルナは丁度、厨房の冷蔵庫を開けていた。

…何で冷蔵庫?

「お前…。シルナじゃないんだから、冷蔵庫の中に靴を隠しはしないだろ」

そんな冷えっ冷えのガラスの靴を、誰が履くんだ。

「え?でも…冷蔵庫の中は夢がいっぱいだから、ガラスの靴の入ってるかと…」

そう思ってるのはお前だけだ。

「真面目に探せよ、真面目に」

「真面目に探してるよ。…あ」

あ?

シルナは冷蔵庫の中に手を入れ、しゅばっ、とこちらを振り向いた。

「ほら見て、羽久。木箱が入ってた」

…マジかよ。

本当に、靴を冷やしてやがった。

案外シンデレラは、シルナと同じ脳みその構造をしているのかもしれない。

俺が悪かったよ。

しかし、問題は。

「本物か?」

「分からない。今開けてみる…」

いくら木箱を見つけても、中に入っているのが本物でなければ、意味がない。

まさか、冷蔵庫に入っているガラスの靴が本物ってことはないと思うが…。

すると、案の定。

「…」

シルナは、真顔で木箱の中を覗いていた。

「…どうだった?」

「凄くひんやりしてる…。これ、ガラスじゃなくて…氷の靴だ」

そう言って、シルナは俺に木箱の中身を見せてくれた。

ひんやりと水滴の汗をかく、氷の靴が入っていた。

…芸術作品か?

無駄に手の込んだものを作成するんじゃない。

「…シンデレラの奴…馬鹿にしやがって…」

黄ばんでたり、わら草履だったり、バナナだったり。

極めつけは、氷の靴かよ。

何処で思いついたんだ、こんな嫌がらせ。

絶対、性格悪い奴に違いない。

「…また駄目か…」

シルナは溜め息をついて、氷の靴をテーブルの上に置いた。

…その気持ちは、よく分かるが。

「落ち込んでる暇はないぞ」

そんな暇があったら、さっさと別の場所も探さないと。

食堂はそれなりに広い。探すところもたくさんある。

「分かってるよ、急いで探そう…。羽久、ここを手伝ってくれる?」

「あぁ、任せろ」

何せ俺は、その為に来たんだからな。

俺はシルナと二人で、厨房を含め、食堂の中を隈無く探し回った。

テーブルの下から、食料貯蔵室まで隅々。

何なら、鍋の中まで探した。

…しかし、その努力の甲斐は虚しかった。