…しかし。

気力だけでどうにか出来るほど、現実は甘くない。

「…駄目か…」

グラウンドに並んでいる、桜の木の根本を隈無く探していたが。

無情にも日が落ち、暗い夜の帳が下りた。

一気に視界が悪くなり、手元すら覚束ない。

もう少しだっていうのに…。酷くもどかしい。

諦める気になれず、俺は目を凝らして木箱を探した。

…すると。

「羽久せんせー」

「すぐり…」

木の上に、いつの間にかすぐりが立っていた。

相変わらず、全く気配のない奴だ。

夜の時間が来れば、ますますこの二人は本領を発揮し始める。

「ここはもういーよ。校舎に戻って、校舎の中を探して」

「…でも…」

「羽久せんせーじゃ見えないでしょ?分業だよ、ぶんぎょー」

…そうだな。

俺がここで意地を張ったとして、どうやっても、令月やすぐりのように、闇の中を見落とさずに探すことは出来ない。

だとしたら、外の捜索は元暗殺者組の二人に任せ。

俺は校舎に戻って、校舎の中を探すべきだろう。

校舎の中も、まだ探していないところはたくさんある。

それに、まだ学生寮だって残っているのだ。

「済まん、ここは頼む」

「うん、任せてよ」

頼もしいすぐりと、そして令月の二人にここを任せ。

俺は、駆け足で校舎に戻った。

日没を迎えた今、残された時間は僅かだ。

一分一秒、無駄にすることは出来ない。

時計を見る時間も惜しく…いや。

時計を見ると、余計に焦ってしまいそうで見られなかった。

そんな暇があったら、とにかく探すしかない。

俺は駆け足で、学生寮に向かった。

ここも、学院の敷地内に変わりない。

生徒の部屋に勝手に侵入し私物を漁るなど、本意ではないが。

そんなこと言ってられないからな。今は。

酒や煙草でも隠してない限り、何を見つけても気にしないから、許してくれ。

…と、思ったが。

「羽久さん」

「ここにいましたか」

「…!天音、それにナジュも…」

学生寮に入ろうとしたところ、天音とナジュの二人が出てきた。