…だが、まぁ、あれだな。

異空間に閉じ込められたとはいえ。

かつて、賢者の石によって異次元世界にじ込められたときのような不安は感じないな。

あのときは一人だったが、今は一人じゃない。

イーニシュフェルト魔導学院の実力者七人が、全員揃ってるんだから。

俺達が全員揃えば、『シンデレラ』だろうと何だろうと、向かうところ敵なしでは?

赤信号も皆で渡れば怖くないと言うが、あれは本当だな。

俺達は今、思いっきり赤信号の横断歩道を渡っているが。

しかし、トラックに撥ね飛ばされる心配はしていない。

このメンバーが揃ってるなら、トラックくらいなら勝てるのでは?

「羽久さん、あなた結構大胆ですね」

俺の心を読んだらしいナジュが言った。

そうか?

「俺達が揃ってるんだ。大胆にもなるだろ」

「まぁ、恐怖はないですね。…僕は元々怖いもの知らずですが」

お前はそうだろうな。

少なくとも、別々の世界に飛ばされて、お互いの身を案じる不安がないというのは、随分気持ちが楽になる。

自分の心配はともかく、仲間の心配をするのは胸が締め付けられるからな。

その点、皆の顔が見られるのは良いことだ。

学院の外が空っぽなのに、我ながら、よくもまぁこんなに冷静でいられるものだ。

仲間の存在は偉大である。

「それで?この忌々しい魔法道具は、何をすれば納得するんです?」

と、不機嫌顔のイレースが聞いた。

「この魔法道具にも、突破する条件があるんでしょう?」

『白雪姫と七人の小人』が、感情を集めていたように。

『オオカミと七匹の子ヤギ』が、本物に成り代わろうとしていたように。

『人魚姫』が、想い人との恋愛成就を目指していたように。

この『シンデレラ』にも、何かしらの目的があるのだろう。

そしてその目的の為に、俺達が巻き込まれるのだ。

俺達が何かをして、『シンデレラ』が納得して帰ってくれるなら。

さっさと済ませて、そしてさっさと帰ろうぜ。

もとの世界では、俺達七人、揃って不在の状況なんだろ?

学院の中に、教師が一人もいない状況。

早く帰らないと、万一生徒が訪ねてきたらどうするんだ。

「うん…。条件は、ある。…厄介な条件が」

俺は落ち着いていたが、シルナは何故か、酷く焦った表情だった。

…厄介な条件、だと?