おまけに。

「人の声が全く聞こえませんね」

イレースが言った。

確かに、言われてみればそうだ。

さっきまで俺達がいた時空では、イーニシュフェルト魔導学院は放課後を迎えていた。

教室に残っておしゃべりをする生徒や、稽古場に向かう生徒の声が、何処かしこから聞こえていた。

しかし、今学院は…死んだような静寂に包まれていた。

誰の声も聞こえない。

学院は、俺達を除いて空っぽになってしまったようだ。

「俺達以外はいないのか…」

「そのようですね」

…。

恐ろしいほど静かなイーニシュフェルト魔導学院は、酷く不気味に見えるが…。

でも、関係のない生徒を巻き込まずに済んで、良かったのかもしれない。

…いや、令月とすぐりは、関係のない生徒なんだけど。

まぁこいつらは、自分の身を自分で守るくらいの実力はあるから。

たった七人。

たった七人で、異次元のイーニシュフェルト魔導学院に閉じ込められてしまった。

訳分からんレベルの超展開だな。

いきなり何事だよ、これは。

俺達、何か悪いことでもしたか…?

…考えられる原因、思い当たる節は…一つしかない。

「…シルナ。さっきの…ガラスの靴は、何だったんだ?」

俺は、ずっと黙っているシルナに尋ねた。

この謎の世界に来る直前、俺達の手元には、生徒が持ってきた鍵付きの木箱があった。

その木箱の中に入っていたのは、透明なガラスの靴。

ガラスの靴と、この謎世界と、どういう関係があるのかさっぱり分からないが。

間違いなく、何かの関係があるはずだ。

ここに来る直前に、俺達の前にあったのだから。

あのガラスの靴に、原因があるのだろう。

たかが靴の分際で、俺達をこんな世界に閉じ込める力があるとは思えないが。

今の俺なら、あの靴に超常現象を起こす力があると言われても、驚かないぞ。

何せ俺は最近、ちっこい貝殻一つで、あれほど面倒臭い人魚姫が召喚されるのを目撃したばかりだからな。

あれに比べれば、ガラスの靴一つで、俺達を異次元に送り込むくらい訳ないだろう。

…ん?『人魚姫』…?

それに…ガラスの靴…って。

「…羽久、皆…。これは多分…『シンデレラ』の仕業だと思う」

ようやく口を開いたシルナは、皆に向かってそう言った。

…なんとも。

なんともまた、メルヘンな童話のタイトルが飛び出してきた。

そして、予想していたタイトルだった。