「…」

俺達は無言で、お互いの顔を見合わせた。

全員、気づいたはずだ。

…ここはもう、俺達がいた世界じゃない。

まるで別の…それこそ、かつて俺達が経験した、異次元世界ような場所に送られてしまった。

木箱の蓋を開け、ガラスの靴を目にした途端に…。

何かのスイッチがはいったかのように、異空間に転送されてしまったのた。

「…何処だ?ここ…」

「さぁ…。…戻ろうと思っても、戻れないようですね」

と、ナジュが言った。

…そのようだな。

分かるのだ。感じる。

自分達が、この謎の世界に閉じ込められてしまったことを。

今度は、俺達が木箱の中の世界に閉じ込められたらしい。

外から鍵をされている。

本当に…異次元世界みたいだな。

間違いない。俺達はまた…厄介事に巻き込まれてしまったのだ。

「景色だけは…さっきまでと何も変わらないね」

天音は、周囲をきょろきょろ見渡しながら言った。

そうなのだ。

奇妙なことに、周囲の景色は先程までと何も変わらない。

いつもの学院長室なのだ。

場所だけは同じまま、ただ空間だけ移動させられたような…。

そんな奇妙な感覚だ。

ただ唯一、先程までと違うところと言ったら…。

「…あの靴、何処に行った?」

俺達の目の前に置いていたはずの、さっきのガラスの靴。

あれが何処かに消えている。

さっきまで、確かに手元にあったはずなのに。

「…皆、外見て」

「ん?」

令月に言われて、顔をあげる。

令月とすぐりは窓際に立って、窓を開けて外を指差した。

「何もなくなってる」

「…!」

…本当だ。

本来なら、学院長室の窓を開けると。

手前に学院の庭が、その少し向こうに門が。

そして更に向こうには、王都セレーナの町並みが見えていた。

それが、いつも窓の外に見える風景だったのに。

令月の指差す先には、何もなかった。

学院の庭と門までは、かろうじて見える。

しかし、学院の敷地外に見えるはずの町並みは、綺麗さっぱり、真っ白になって消えていた。

令月の言う通り、何もない。

外の景色は何処に消えた?

「…かろうじて、園芸部の畑は見えるねー」

すぐりが、窓の外を見ながら言った。

園芸部の畑は見えるのか。

…ということは、一応学院の敷地内は、この空間に存在しているようだな。

でも、それ以外は。

学院の外は、存在していない。

つまり俺達は、この異次元のイーニシュフェルト魔導学院に、閉じ込められてしまったということだ。