なんか聞こえてなかったみたいだから、もう一回。

「だから、アトラスは既婚者なんだって。奥さんがいるんだよ、もう」

アトラスが一生添い遂げる相手は、既に存在してるんだよ。

お前に、間に入る余地なんてないんだよ。

無理なの。無理。分かる?

…が。

「でも、いきなりお声をかけたら、驚かれるでしょうか?やはりまずは、少しずつ距離を縮めていって…」

…全然、俺の話聞いてないんだけど。

「おい、自分に都合の悪い話を無視するな。き、こ、ん、しゃ。アトラスはもう結婚してるんだよ」

「ううん、少しずつでは駄目ですわ。やはり、ここは多少強引でも、積極的にアタックしなくては」

話聞けって。

何一人で喋ってんだ。

「アトラスの横に、美人な女の人がいただろ?あれがアトラスの奥さんだよ。二人は結婚してんの。子供もいんの。お前が消極的にアタックしようが、積極的にアタックしようが、アトラスは目もくれないよ」

無理なの。無駄なの。無意味なの。

何をしたって、アトラスがシュニィ以外の女性に振り向くことはないの。

お前ごときに、シュニィ以上の魅力があるとは、とても。

そりゃ人魚姫も綺麗だけど、でも、良いのはそれだけだ。

それ以外に、シュニィに勝てる要素なんてない。

アトラス目線で見れば、シュニィ以上の美人なんて、大陸中を探してもいないらしいしな。

大陸どころか、この世界で一番らしいぞ。

それはさすがに盛り過ぎではないか…と思うけど。

そんなこと口にしたら、アトラスに追いかけられるからな。

不用意なことは言わない方が良い。

命が惜しいならな。

だから、悪いことは言わん。

お前もアトラスのことは、潔く諦めろ。

「アトラスには奥さんがいるんだ。お前じゃあ、奥さんどころか、愛人にもなれないよ」

さっさと諦めて、そしてさっさと貝殻の中に帰ってくれ。

その方が、お前の身の為だぞ。

…しかし。

「さぁ、早速色々と準備をしなくては。皆さんも手伝ってくださいますわよね?」

「…」

「わたくし、必ずアトラス様の妻になってみせますわ。待っていてくださいませ、アトラス様…!」

頬を赤く染め、目をキラキラとさせて。

俺の言うことなど、全く聞こえていない人魚姫は、力強くそう宣言した。

面…ッ倒臭いことになったぞ…?