聖魔騎士団団長のアトラスと、聖魔騎士団副団長のシュニィは、相思相愛の夫婦である。

そして二人の間には、可愛い男女の子供が一人ずつ生まれている。

あの二人の仲の良いことと言ったら。

それに何より、アトラスがいかに、妻であるシュニィにべた惚れであるか。

聖魔騎士団に所属する者なら、知らない者はいない。

聖魔騎士団の隊舎内で、うっかり、ちょっとでも、シュニィの悪口を口走ろうものなら。

シュニィに関することなら、1キロ先で針が落ちても気づくレベルの地獄耳と化すアトラスに、大剣を持って追い回されることになる。

聖魔騎士にとっては、死活問題だろうな。

結婚してしばらくになるが、アトラスの愛妻家ぶりは、未だに全く衰えていない。

…どころか、日増しにパワーアップしているくらいだ。

何せアトラスは、妊娠した妻の為に、北方都市エクトルから、走って王都まで帰ってきた男だからな。

暴走機関車だよ。

アトラスとシュニィのことは、二人がまだイーニシュフェルト魔導学院に在学中の頃から、よく知っているが。

それ故に分かる。

シュニィ以外の女性など、アトラスは見向きもしない。

シュニィもまた、アトラス以外の男性には、目もくれない。

まさに、ルーデュニア聖王国のベストカップルと呼ぶべき夫婦である。

二人の仲は決して引き裂けないし、ましてや、ぽっと出の人外生物などでは。

二人の間に、ほんの少しの亀裂を入れることさえ出来ないだろう。

話にならない。

アトラスもシュニィも、相手にしないだろう。

だから、アトラスに恋するなんて無謀だと言っているのだ。

絶対に叶わないから。

何をしようと、アトラスがシュニィ以外の女性を愛することは有り得ない。

これまでもアトラスは、立場上、様々な女性に粉をかけられたことがあるだろう。

しかし、そんな女性達の努力も虚しく。

振り向いてもらうどころか、気づいてさえもらえなかったことだろう。

あのアトラスの目に、シュニィ以外の女性が映るはずがない。

…故に。

ここで人魚姫が、いくらアトラスに思慕の情を語ったところで。

それは全くの無意味、なのだ。

だからこそ、俺は人魚姫に教えてやった。

アトラスが既婚者であることを。

そうすれば、人魚姫も少しは心を改め、

「さぁ、早速アトラス様に振り向いてもらわなくては。一体何を致しましょう?お手紙?お弁当?お花をプレゼントしても良いですわね」

わくわくと、夢を語る人魚姫。

…。

…えーと、俺の話、聞いてた?