辺りを捜索すると、人魚姫はすぐに見つかった。

そんなに遠くには来ていなかった。

「おい!お前、何やってんだ」

俺が声をかけたとき。

人魚姫は地面にしゃがみ込み、両手で顔を押さえていた。

…何やってんの?

もし具合でも悪いのなら、無理せず貝殻の中に戻ってくれ。

そのまま貝殻を永遠に封印して、二度と出てこられないようにしてやるから。

…しかし。

「はぁ〜。はぅあ〜…」

人魚姫は顔を押さえたまま、恍惚とした溜め息を連発していた。

…??

「お、おい…?」

「…なんて…なんて素敵な殿方なのでしょう…!」

あ。

ようやく、まともに人語を喋った。

人魚姫が顔を押さえていた手を退けると、人魚姫の頬は真っ赤に染まっていた。

「写真で見るより、実物の方がずっと男前でしたわ…!」

…。

どうやら、アトラスと対面した感想を述べているらしい。

そりゃまぁ…写真より、実物の方が男前なのは確かだけどさ…。

「逞しい身体つき。あの男らしい汗の匂い…!」

「…」

「そして何より、あの低く、力強いお声…!聞けば聞くほどに魅力的ですわ…!」

「…あ、そ」

どうやら、この人魚姫。

実物のアトラスがあまりに格好良くて、悶絶していたらしい。

慌てて追ってきた俺達が、馬鹿みたいだ。

やっぱり放っておけば良かったよ。

もう永遠に放っておいて良いんじゃないかな。

…しかし、そうも行かないんだよな。

こいつを野放しにしておいたら、人様に迷惑がかかる。

「わたくし、決めましたわ」

決意に満ちた表情で、人魚姫はこちらを向いた。

「…何を?」

嫌な予感しかしないが、一応聞いてみる。

「わたくしは、あの素敵な殿方と一生添い遂げると。あの方こそ私の運命の御方。わたくしの夫となる方ですわ…!」

「…」

…あ、そう。

どうやら、アトラスのことを非常に気に入ったようだ。

それは…まぁ、結構なことなんだけど…。

誰を好きになろうが、それは個人の自由だと思うけども…。

しかし。

何度も言うように、アトラスに恋をするのは全くの無駄だ。

恋しても良いけど、絶対に叶わない片思いにしかならないぞ。

だって、さっきも見ただろう?アトラスは。

「…あのさ、出鼻を挫いて申し訳ないけど。あいつ、アトラスは既婚者だぞ?」

…とうとう、言ってしまった。