俺とシルナの顔を見ても、大した反応はなく。

人魚姫の顔を見ても、やっぱり大した反応はなかったのに。

アトラスは、妻であるシュニィの顔を見たら、ツートーンは表情が明るくなった。

元気そうで何より。

「どうだった?西方の視察は」

「大丈夫です。大事ありません」

シュニィ、今日西方都市の視察に出ていたのか。

お疲れ様。

「そうか、良かった。シュニィが西方都市で暴君に襲われてやしないかと、一日中心配していたんだぞ」

「そんな…大袈裟ですよ」
 
「何を言う。シュニィはルーデュニア聖王国1…いや、大陸1…いや、この時空で一番の美人なんだからな!何が起きるか分からない」

…そりゃ大きく出たな。

ここでアトラスに、「いやそんなことはないだろ」なんて言ってみろ。

えらい目に遭うからな。

俺はまだ命が惜しいから、そんな恐ろしいことは言わない。

「よし、シュニィ。今日は早めに帰ろう。何せ今日はアイナと、野生のくまさんごっこをする約束だからな!」

何やら、危険な香りのする遊び。

お前、自分の娘と普段どんな遊びしてんの?

「…はぁ…やれやれですね…」

呆れたような、照れ臭いような、微妙な顔で溜め息をつくシュニィである。

苦労してんな、お前も。

だが、幸せそうで何より。

「…それで…学院長先生」

シュニィは、改めて、とばかりにくるりとこちらを向いた。

「今日は、どうされたんですか?」

「あ…。えーと、それは…」

「それに、そちらの女性は?見慣れないお顔ですが…」

俺は、シルナと顔を見合わせた。

…えーと。

この人は…いや、厳密には人ではないんだが…。

「いやー。こいつ、お宅の旦那に惚れたらしくてさぁ」とも言えず。

何と説明したら良いものかと、シルナと二人で頭を悩ませていると。

「…ん?」

…人魚姫が、ぶるぶると痙攣でもするかのように震えていた。

ど、どうした?泡になって消える前兆?

だとしたら有り難い…けども。

「…??大丈夫ですか…?」

シュニィが声をかけるも、人魚姫は答えない。

…代わりに。

「っ。きゃあ〜っ!!」

「!?」

人魚姫は、堪えきれないとばかりに顔を押さえ。

そして、奇声をあげて、その場から走り去っていった。

な…。

…何事?