悲報。

人魚姫が、パンフレットに掲載されている、写真の中のアトラスに恋をしてしまった。

所謂、一目惚れって奴だ。

ロマンチックじゃないか。さすが童話のお姫様。

それは結構なことだ。

…写真で選ぶのかよとか、そんな選び方で良いのかよ言いたいことは色々あるが。

「なんて素敵な方。端正な顔立ち、そして、いかにも頼り甲斐のある、威風堂々とした風貌…!」

…全然、聞いてくれそうにない雰囲気。

さっきまで、スーパーで買い物するノリで、花婿候補を探していたのに。

余程…アトラスの顔が、好みのどストライクだったらしい。

今となっては、アトラス以外は目に入らない状態。

たった一枚の写真ごときで…。

テーブルの上にパンフレットを放り出していたこと、今更になって後悔するが…。

でも、まさかそんな写真一枚で、人魚姫がこんな状態になるとは思わない。

そうか…。アトラスが好みなのか…。

まぁ顔は整ってるし、強いし、背も高いし、頼り甲斐はあるよな。

何と言っても、我がルーデュニア聖王国、聖魔騎士団団長だからな。

そりゃ、多くの女性にとって、アトラスは魅力的に見えるだろう。

それは分かる。

…分かるけども。

アトラスに恋をするなんて、穴の空いたコップに水を注ぐようなもの。

つまり、全くの無意味である。

令月とすぐり以外、ここにいる誰もが知っている。

アトラスに恋をするということが、どれほど無謀な行為であるか。

いや、まぁ、恋するのは勝手だけど。

それが叶うことは、絶対に有り得ない。

ナジュが、リリス以外の女性を選ぶことが有り得ないのと同じ。

だって、アトラスには既に…。

「あのさ…。嬉しそうなところわるいんだけど、アトラスは無理だぞ。アトラスには、もう…」

「アトラス様?アトラス様と仰るのですね、この素敵な殿方は?」

諦めさせるつもりで声をかけたら、むしろ人魚姫は、目をきらきら輝かせていた。

素敵な殿方って…。そりゃ、素敵な殿方だけども…。

でも、アトラスに恋をするなど、あまりに無謀…。

「あなた方のお知り合いなのですね?是非とも、このアトラス様に会わせてくださいませ」

「いや、あのさ…。アトラスは無理だって。悪いこと言わないから、やめとけ」

「アトラス様。なんて素敵な方…!」

駄目だ。話聞いてない。

人魚姫は、パンフレットの写真を恍惚と見つめていた。

マジかよ…。どうすりゃ良いんだ、これ…。

「あの破壊神を好きになるとは…。なかなか度胸のある人魚姫ですね」

ポツリと呟くナジュである。

破壊神言うな。破壊神だけども。

「どうするんだよ…?アトラスに恋いしたって、絶対叶わないぞ?」

「う、うん…。無理だね…」

「いっそ、会わせてやれば良いのでは?自分で目にすれば、諦めもつくでしょう」

と、イレース。

…やはり、それしかないか。