「この方…この方ですわ…!」

は?

誰?誰が何だって?

「この方こそ、わたくしの理想の殿方。わたくしの花婿に相応しい殿方ですわ!」

そう言って。

人魚姫は、シルナのテーブルの上に置いてあったパンフレットを抱き締めた。

…何やってんの?あいつ。

「何?あのパンフ」

「あ…。あれ、聖魔騎士団が生徒用に送ってくれた、聖魔騎士団隊舎見学会の案内…」

聖魔騎士団の見学会?

そういや、毎年やってるよな。

イーニシュフェルト魔導学院からも、数多くの参加者がいる。

その為、見学会の案内パンフレットが、毎年学院に送られてくるのだ。

人魚姫はそのパンフレットを抱いて、何やらメロメロになっている。

…一体何事?

「…えーと…楽しそうなところ悪いんだけど、何やって…」

尋ねてみると、人魚姫はパンフレットをこちらに見せつけてきた。

「この方は、どちらにいらっしゃいますの?」

この方…って。

そのパンフレットの1ページを見て、俺達はようやく、人魚姫が何を言っているのか理解した。

写真だ。

パンフレットに、カラーの写真が掲載されていた。

…聖魔騎士団団長、アトラス・ルシェリートの写真が。

「この方こそ、わたくしが添い遂げるに相応しい殿方ですわ!」

「…」

…これには、俺達は一同、言葉をなくし。

「…写真が好きなの?」

「写真だけで好きになれるなんて、単純にも程があるでしょ」

事情をよく知らない令月とすぐりだけが、きょとんと首を傾げていた。