…。

…えぇっと…何事?

眩しさに目を細めた、その先に。

水色の髪をして、鱗のような模様のついた、マーメイドスカートを纏う美女がいた。

…ど…。

…どなた?

「…学院に侵入する者は、何人であろうとも許しません」

すちゃ、と杖を取り出すイレース。

ちょ、早まるな。早まるなって。せめて話を聞いてから。

しかし、二枚貝から現れた謎の美女は、そんなイレースを物ともせず。

代わりに、つかつかとこちらに歩み寄り。

無遠慮に、じろじろと俺の顔を眺めていた。

な…何?何なんだ?

そもそも、あんた誰?

「わたくしは、恋する人魚姫」

と、自信満々に美女は言った。

「理想の殿方と添い遂げる為に、わたくしに力を貸してくださいませ」

…とのこと。

えぇと…ちょっと、意味がよく分からないんだけど…。

…凄く、面倒臭そうな匂いはする。

俺はもしかして、開けてはならないパンドラの箱…ならぬ。

パンドラの貝殻を、開けてしまったのでは?

「あ、あぁ…。貝殻、開けちゃった…」

と、青ざめるシルナ。

おい、マジかよ。やっぱり?

落ちてるものを、不用意に拾い上げるものじゃない。

人生の教訓にしよう。

「シルナ。これ知ってるのか?誰なんだよこの女?」

「彼女は…『人魚姫』だ」

…『人魚姫』?

って言うと、あの有名な童話の?王子に惚れた人魚が、魔法で人間になる…あの童話?

童話…人魚姫って…まさか…。

「…まさか、またあの…童話シリーズの魔法道具じゃないでしょうね?」

ずばり、とイレースが尋ねると。

シルナは遠い目をして、こくんと頷いた。

…そうなのか。やっぱり。

…そうだったか…。

俺、もう二度と落し物拾うのやめとこうかな。

ろくな目に遭わん。