…それにしても、あれだな。

当たり前のことなんだけど。

「…やっぱり、イレースはイレースだな」

「…何です?嫌味か何かですか?」

そういう意味じゃないよ。

「良い意味で言ってるんだよ。俺なんか、ドッペルゲンガー騒ぎで頭がいっぱいなのに…。イレースはいつも通りだからさ」

尊敬してるんだよ。

俺もイレースほど、堂々と構えていられたら良かったのだが。

それだけ、俺が小心者ってことなんだろうな。恥ずかしながら。

「考えても仕方のないことは、考えないだけです。私の偽物が私の前に出てきたら倒す。それだけです」

…それはまぁ、そうなんだけど。

シンプルだなー。

「偽物のしたことは、あくまで偽物のしたことです。私と同じ顔をした偽物が何をしようと、それは私ではありません。私には関係のないことです」

それもまぁ、そうなんだけど。

そんなに割り切れないんだよ。俺は。

「下らない幽霊騒ぎのせいで生徒が浮ついて、私の完璧な授業計画に傷がついたのは、許せませんけどね」

…うん。

イレースは、そうだろうな。

「…怖くないのか?自分のドッペルゲンガー…」

「邪魔だとは思いますが、怖くはありませんね。所詮はマネキン人形と同じものです」

イケメンだなぁ、イレース…。

男の俺達より、余程イケメンだよ。

俺にも、そんな度胸があったらなぁ。

「もし私の偽物を見つけたら、即座に黒焦げにしておいてください。私も、あなたの偽物を見つけたら、そうしますから」

「…うん…」

…あのさ。

それ、本物と間違えて、俺を丸焦げにしないでくれよ?

ちゃんと、そいつが偽物だという確信を持ってから、丸焼きにしてくれ。

危うく、俺が黒焦げになるところだ。

「それでは、学院長。有言実行して…明日の朝一番に、書類を持ってきてくださいね」

「うぐっ…」

「…返事は?」

「は、はいっ…」

「よろしい」

頷いてから、イレースは学院長室を出ていった。

つくづく、うだつの上がらないシルナである。

これはあれだな、シルナ…お前、今日徹夜確定だな。