「あっ!イレースちゃん、いらっしゃい!よく来たね!」

イーニシュフェルト魔導学院唯一の女性教師で、元ラミッドフルスの鬼教官という異名をお持ちのイレースである。

お前は、いつ見ても堂々としてるよなぁ…。

そういえば俺、イレースが狼狽えてるところって見たことないかも…。

もしイレースが狼狽えることがあったら、それは世界の終わりだな。

などと、本人が聞いたら激怒しそうなことを考えていた。

すると。

「良いところに来たね〜イレースちゃん。はいっ、チョコまん。まだほかほかだよ」

「結構です」

一刀両断。

「そんなことより、魔導教育委員会に提出する書類は?出来ましたか?」

「…ぎくっ…」

「それから、来月送付する魔導練習機材の注文一覧は?チェック項目がたくさんあるから、早めに仕上げてくださいとお願いしたでしょう?」

「ぎくっ…」

シルナは目をぐるぐるさせて、明後日の方向を向いた。

…やってないらしいな。

「…まさか、まだ作ってないんですか?」

ギラリ、と光るイレースの眼光。
 
おぉ、怖っ。

「だ、大丈夫だよ。すぐやるから!大丈夫!明日までには終わってるよ!」

「現在進行系で、書類仕事どころか、チョコ大福齧ってる男が何を言っても説得力がありませんね」

「これはチョコ大福じゃないよ!あったか〜いチョコまん…」

「大福だろうが、中華まんだろうが、泥団子だろうが、そんなことはどうでも良いんですよ」

泥団子って、お前。

そりゃチョコと同じ色してるけども。

「迅速に仕事を済ませなさい。さっさと」

「そ、それは分かったけど、でもね、でも。このチョコまんを味わうくらいの時間の余裕なら私にもある、」

「つべこべ言ってる暇があったら、さっさと始めなさい」

鬼教官イレースに、慈悲なし。

まぁしょうがないよな。

やらなきゃならない書類仕事を、後回しにしてたシルナが悪い。

怒られたくなかったら、さっさと済ませておけば良かったものを。

全くこれだから、いつもシルナは怒られるんだよ。

「うぅ…。イレースちゃん短気…。カルシウム…カルシウムが不足してるんだよ、きっと…」

「…何か言いましたか?」

「いえっ、な、何でもありません!」

敬語。

シルナと言えども、やはり鬼教官イレースは怖いらしい。