(急にこんな話をされて、ショックを受けないはずはない。襲われた時の恐怖も蘇っているだろう。今すぐ何かを話せる状態ではない)

 そう思い、代わりに自分が話そうと口を開いた時だった。

 「園田様、顔を上げてください」

 落ち着いた声で真菜が言う。

 新郎は、ハッとしたように真菜を見た。

 「確かに新婦様のされた事は犯罪です。どんな理由であれ、許される事ではありません。ですが、私は警察には届けません。なぜなら、もう二度と新婦様は、このような事はなさらないと思うからです。そして充分に、反省も後悔もされていると思います。園田様の様子を見て、私はそう感じました」

 言葉にならない声を上げて、新郎は泣き続ける。

 「すみません、本当に。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。結婚の話は白紙になりました。挙式のキャンセル料もきちんとお支払いたします。二度とこちらにご迷惑はおかけしません。本当に申し訳ありませんでした」

 やがて立ち上がり、最後に深々とお辞儀した新郎に、真菜が声をかけた。

 「園田様、1つお願いがあります」

 ぴたりと立ち止まり、新郎が恐る恐る真菜を振り返る。

 「園田様。もう一度、新婦様と結婚についてお話してみてください。キャンセルはそのあとでも間に合いますから」

 えっ…と新郎は動きを止める。

 「時間をかけて、もう一度新婦様に向き合ってみてください。それが私からのお願いです」

 真菜は、新郎を真っ直ぐ見据えて頷いた。