「4年間、海外事業部にいたんだ。帰国したばかりで、この寮に入った。4月からは本社勤務になる」
 「え?本社って東京ですよね?この寮から通うんですか?」
 「いや、ここにはそう長くはいない。しばらく横浜エリアの式場を見て回ろうと思って、その間の仮住まいだ」
 「なるほど。そうですよね、本部の方がこんな単身寮には住まないですよね」
 「でも場所は気に入っている。横浜はいいな」
 「ですよね!海も近いし、東京ほど混雑してないし」
 「ああ。都内に住もうかと思っていたが、横浜から通うのもアリかも」
 「うんうん。ぜひ横浜に!って、私、親善大使でも何でもないですけど。でも本当にいい所ですよね。横浜に配属されて良かったなー、私。フェリシア 横浜も、凄く気に入っていて大好きなんです。アニヴェルセル・エトワールの他の式場も行ったことありますけど、やっぱりお花がいっぱいのフェリシア 横浜が1番好きー」

 そう言って、ふふっと笑顔を向けると、真は一瞬驚いたような表情をしてから、すぐに目を逸らした。

 「フェリシア 横浜で、いつか愛する人と結婚式を挙げたいなー。一生に一度のウェディングドレス姿を、大好きな人に式で初めて見せるの。誓いの言葉なんて、きっと泣いちゃうー。ベールを上げて見つめ合ったら…キャー!もう想像しただけで鼻血が出そう〜」
 「おい、出すなよ」
 「出しませんよー。大好きな人にしか出ませんからー」
 「それもどうかと思うが?」
 「安心してください。真さんには出しません」
 「そりゃどうも…って、お前、さては酔ってるな?」
 「えー?今頃気付いたんですかー?酔いまくってますよー」
 「さっきまで普通だったのに、なんだ急に?とにかく帰れ。ここで寝るなよ」
 「寝ませんよー。愛する人の腕の中でしか眠れないんです、私って」
 「そう言って机に突っ伏すな!寝る気だろう!」
 「だーかーらー、真さんの腕の中では、眠れませんよー」
 「机の上なら寝るのか。おい!起きろー!」

 そして強引に腕を取られ、ふらつく足取りで階段を下りるのを支えられながら、なんとか真菜は自分の部屋にたどり着いて、バタッとベッドに倒れ込んだ。