「美味しそうなチーズケーキね。私も主人も、チーズケーキが大好きなの」
 「ええ。真さんからうかがいました。手土産を考えていたら、お二人ともチーズケーキがお好きだって」

 え、真が?と、意外そうに聞き返され、真菜は不思議に思いながら頷いた。

 「そう、あの子がそんなふうに…」

 ティーポットにお湯を注ぎながら、母親が話し始める。

 「あの子は、高校を卒業してから1度もこの家に帰って来なくてね」
 「え!そうなんですか?」
 「ええ。アメリカに留学して、その後そのままうちの関連会社の海外事業部に就職したの。今年の3月に帰国したのは知っていたけど、実家ではなく寮に入るとか言って。それで今は、横浜で暮らしてるとか?」
 「あ、はい。みなとみらいに」
 「そう。住所も教えてくれないのよ」
 「あの…それは何か理由があるんでしょうか?」
 「そうねえ。あの子、本当は父親の会社を継ぐつもりだったのよ。なのにいきなり、関連会社の方に行けって言われて。それで心を閉ざしてしまったのかもね。訳を話そうとしても聞く耳を持たなくて、気付いたら何年も顔を合わせなくなっていて…」

 そこまで言うと顔を上げ、ぱっと笑顔になる。

 「だからね、今日はもう、嬉しくて!真が結婚の報告に来るなんて。しかも、こんなに素敵なお嬢さんと!」
 「い、いえ、そんな、私なんて」
 「ううん。私、もう既に、あなたのことが大好きよ!よろしくね、真菜さん」
 「こ、こちらこそ!よろしくお願いします」

 二人で、ふふっと微笑み合った。