希にビールを注がれ、ゴクゴクと飲み干した時、写真事業部に所属するカメラマンの拓真(たくま)がやって来た。

 真菜とは同い年の同期入社で、関東エリアのあちこちの式場で、カメラマンとして働いている。

  基本的にはフェリシア 横浜を拠点にしており、真菜とも気心の知れた仲だ。

 「真菜、ほら。この間の模擬挙式の写真、やるよ」

 そう言って、厚みのある封筒を真菜に差し出す。

 「へえー、どれどれ?」

 希も身を乗り出して覗き込んできた。

 封筒から写真を取り出してみると、ウェディングドレス姿の真菜が、様々なアングルで写っていた。

 バージンロードを歩く後ろ姿、うつむき加減の横顔のアップ、指輪の交換やベールアップの瞬間。

 何枚かの写真をめくってから、真菜は手を止めて拓真を見る。

 「も、もしかして拓真くん。このあと、撮ってないよね?」
 「このあとって?」

 どこかとぼけた表情をする拓真に、真菜は嫌な予感がした。

 「そりゃ、ブライダルカメラマンですからねー。決定的瞬間は逃してませんよー」

 嫌な予感が確信に変わり、真菜は写真を封筒にしまう。

 「お?なんだ、見ないのかよ?」
 「はい、それは、その。お見せする程の物ではありませんので」
 「なんだよー。天才カメラマンの拓真様の写真だぞ?良く撮れてるのに」

 まあまあと、希が二人の間に割って入る。

 「真菜、家に帰ってからゆっくり見なさいよね。ほら、天才ぽんこつカメラマンの拓真はビールでも飲んで」
 「はいー?希先輩、なんか今、変なひと言挟みました?」
 「挟んでないよー、褒め称えただけよー」

 二人のやり取りを聞きながら、真菜は写真をそっと鞄にしまった。